三十路みそじ)” の例文
すると、廊の外から、ことばの途切れをしおに入ってきた静かな人がある。まだ三十路みそじがらみのきれいな尼御前あまごぜであった。清子の横へ、手をつかえると。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十路みそじを越えても、やつれても、今もその美しさ。片田舎の虎杖になぞ世にある人とは思われません。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このお方はお年も三十路みそじをおこえなされ、さかりは過ぎていらっしゃいましたが、よろずのみちにおたしなみがふかく、ゆうにやさしいお心ざまでいらっしゃいましたし
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
八重も女の身の既に三十路みそじを越えたり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
い殺しても上げたいほど女心では憎くてならなかったのである。彼女は三十路みそじをすこし越えた自分の容色と肉体に負けじたましいをふるいおこしていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ましておくがたは三十路みそじにちかくおなりあそばし、お年をめすにしたがっていよ/\御きりょうがみずぎわ立たれ、ようがんます/\おんうるわしく、つゆもしたゝるばかりのくろかみ
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それも道理で、もう女の三十路みそじをこえているが、青年玄徳に、はじめて恋ごころを知らしめた女性なのである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつか細川忠興は三十だいの男ざかりとなり、迦羅奢も同い年の三十路みそじ。そして五人の子の母とはなった。
は、ことし十五となっており、その生母の藤夜叉も、はや三十路みそじをすこし出て、いまでは“越前えちぜんまえ”とよばれ、まったく、武家家庭の型に拘束された一女性になりきっていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十路みそじの豊艶な花はまだ露も香も十分にたたえているが、それにもかかわらずとげがある。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかんせん、彼女の容色もはや三十路みそじのなかばである。自信はない。けれどそれは決して帝という男を肌から離しきった意味ではない。むしろ完全なわがものとしての安心でさえあったろう。
千浪も虚無僧当時の乙女でなく、御方も早や三十路みそじに近い色香の薄らぎ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)