一籌いっちゅう)” の例文
奇抜という点からいえば、一茶に一籌いっちゅうせねばならぬけれども、食われ残りの鴨よりは、食い残されて春に逢う菜の花の方に真のあわれはあるのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しかし身のたけ六尺五寸、体重三十七貫と言うのですから、太刀山たちやまにも負けない大男だったのです。いや、恐らくは太刀山も一籌いっちゅうするくらいだったのでしょう。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
剣客の剣を舞わすに、力相若あいしくときは剣術は無術と同じ。彼、これを一籌いっちゅうの末に制する事あたわざれば、学ばざるものの相対して敵となるに等しければなり。人をあざむくもまたこれに類す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この点ではフィルハーモニーといえども一籌いっちゅうするかも知れない。
わたしも亦あらゆる芸術家のようにむしろ譃には巧みだった。が、いつも彼女には一籌いっちゅうする外はなかった。彼女は実に去年の譃をも五分前の譃のように覚えていた。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)