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ももすじ
千筋百筋気は乱るとも夫おもうはただ一筋、ただ一筋の
唐七糸帯は、お屋敷奉公せし叔母が
紀念と
大切に
秘蔵たれど何か
厭わん手放すを、と何やらかやらありたけ出して
婢に包ませ
風が身に染むので心着けば、
樹蔭なる
崖の腹から二頭の竜の、二条の氷柱を吐く末が
百筋に乱れて、どッと池へ
灌ぐのは、熊野の
野社の
千歳経る杉の林を頂いた、十二社の滝の
下路である。
そよ風が小波立てて、沼の上を
千条百条網の目を絞って掛寄せ掛寄せ、沈んだ跡へ
揺かけると、水鳥が
衝と
蹴たごとく、芭蕉の広葉は向うの
汀へ、するすると小さく片寄る。