)” の例文
旧字:
されどその頃の我は、これを何よりの事と思ひて、十六といふまではかくして過ぎしに、にも時は金なりといへる世の諺に違はず。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
にもと思う武士達の顔をズラリと一渡り見廻してから彼は手綱たづなを掻い繰った。馬は粛々と歩を運ぶ。危険は瞬間に去ったのである。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
にも」と今さらの如く、玄徳の心労にふかく思いを打たれた。——無事と見えた日ほど玄徳の心労はかえって多かったのである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして訪ねたいとか逢ひたいとか考へてゐる人に、ふいに会へばともかく、さうでなかつたらにさりげなく見過すべきであつたらう。
故郷を辞す (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
にこの奥方なれば、金時計持てるも、真珠の襟留せるも、指環を五つまで穿せるも、よし馬車に乗りて行かんとも、何をかづべき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
にや人の世の苦しさは、この心弱き者をして、なかなかに監倉の苦を甘んぜしめんとするなり、これをしも誰か悲惨ならずとはいうや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
にこそ恐しきはお犬の経立ちなるかな。われら、経立なる言葉の何の意なるやを解せずといえども、その音のひびき、言知らず、ものすさまじ。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰が何を饒舌つても、争つても忽ち消えてしまつて一沫のよどみも感ぜられないていにも長閑な春の午近い海辺であつた。
まぼろし (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
唐渡り黒繻子じゅすの丸帯に金銀二艘の和蘭陀船オランダぶね模様の刺繍ぬいとり、眼を驚かして、人も衣裳も共々に、に千金とも万金ともいた口のふさがらぬ派手姿。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
燈光とうくわうさんとしてまばゆき所、地中海の汐風に吹かれ来しこの友の美髯びせん、如何に栄々はえ/″\しくも嬉しげに輝やきしか、我はになつかしき詩人なりと思ひぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かえって心配の種子たねにて我をも其等それらうきたる人々と同じようおぼいずらんかとあんそうろうてはに/\頼み薄く口惜くちおしゅう覚えて、あわれ歳月としつきの早くたてかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
にや人倫五常の道にそむきてかへつて世に迎へられ人に敬はるるけいらが渡世たつきこそ目出度めでたけれ。かく戯れたまひし人もし深き心ありてのことならんか。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その伝の筆をかんとする時に「ソクラテスはに哲学者の死を遂げた」と書いてその文を結ばんとした時に、ふと眼前にひらめいたのは基督の死方であった。
「死」の問題に対して (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「豪儀じゃ、豪儀じゃ、そちは左程さほどになけれども、そちの身に添う慾心がに大力じゃ。大力じゃのう。ほめ遣わす。ほめ遣わす。さらばしかと預けたぞよ」
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
に見渡す限り磊々らいらい塁々たる石塊の山野のみで、聞ゆるものは鳥の鳴くすらなく満目ただ荒涼、宛然さながら話しに聞いている黄泉よみの国を目のあたり見る心地である。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
という言葉の節々、その声音こわね、其眼元、其顔色はおおいなる秘密、いたましい秘密を包んでるように思われた。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
に人の子は己につきてしるされたるごとく逝くなり。されども人の子を売る者は禍害わざわいなるかな、その人は生まれざりし方よかりしものを!(一四の二〇、二一)
おのれの干乾ひからびた身体とおのれのうちにある暗夜とを、ただいたずらにうちながめながら、地上に孤独のまま埋もれてる無益なる存在者こそ、にも不幸である。
時しも寒気かんきはだへつらぬくをりふしなれば、こゞえすべきありさま也。ふたおやはさら也人々もはじめてそれと知り、にもとてみな/\おなじく水をあびていのりけり。
に今宵こそ屈竟くっきょうなれ。さきに僕退出まかりでし時は、大王は照射ともしが膝を枕として、前後も知らず酔臥えいふしたまひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一夕、家父の砂糖をもとむる夢を見たりしが、その翌日、家父死亡の電報に接し、急に帰りきたりてこれをたずぬれば、家父終焉しゅうえんの際、に砂糖をもとめたりという
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
誠心は隠すところなく八房に与へたり、而して不穢不犯、玲瓏れいろうたるチヤスチチイの処女、禍福の外に卓立し、運命の鉄柵を物ともせざるは、にこの馬琴の想児なり。
世界を満たす唯一の人のいない時、世はいかにむなしいか。恋人は神になるとは、に真なるかな。
今や報讐かたきうち稗史そうし世に行われて童児これを愛す。にや忠をすすめ孝にもとづくること、なわもて曳くがごとし。しかしその冊中面白からんことを専にして死亡のていを多くす。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此の頃にはかに其の影を見せぬは、必定函根はこねの湯気す所か、大磯おほいそ濤音なみおとゆるあたり何某殿なにがしどのと不景気知らずの冬籠ふゆごもり、ねたましの御全盛やと思ひの外、に驚かるゝものは人心
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我等は、何とも苦しくて、こころねつすれども肉体にくたいよわく、とてもママの傍にいる気力は無い
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今はた思へばに人目には怪しかりけん、よしや二人が心は行水ゆくみづの色なくとも、ふや嶋田髷これも小児こどもならぬに、師は三十に三つあまり、七歳にしてと書物の上には学びたるを
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
に実に土民のいい出せることばなれども、全く私言にあるべからずと記せるなど考え出すと、昔は本邦でも弥勒の平等無差別世界をこいねがう事深く、下層民にまで浸潤し、結構な豊年を祝い
結願して帰る時しもかゝる目を見るこそ、に前世の果報の致す所なめれ。
放免考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
総じて世の中は与ふる者威張いばり与へらるる者下るの定則と見えてさすがの兵卒殿も船の中に居て船の飯を喰ふ間は炊事場の男どもの機嫌を取る故にや飯焚めしたきの威張るつらの憎さにも浮世は現金なり。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ねがひの刑を選ぶべし!⦆かく宣まへばやや暫し、イワンは刑を打ち案じ、思案にくれてゐたりしが、やがて答へて申すやう、⦅にやこれなる悪人は、いと大いなる害毒をわれに与へし痴者しれものなり。
何方どっちが西か東か一向見分けも付かぬくらいで、そこらに船でもあれば、船は微塵みじんと砕けるは必定ひつじょうに三人の命は風前の燈火ともしびの如くであります。流石さすが鉄腸強胆てっちょうごうたんな文治も、思わず声を挙げまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
祝子はふりこ木綿ゆふうち紛ひ置く霜はにいちじるき神のしるしか
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
に自らをほこりつゝ、はたのろひぬる、あはれ、人の世。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
それか、に声もなき秦皮とねりこの森のひまより
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
君こそはにこよなき審判官さばきのつかさなれ
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
冬日ありに頼もしき限りかな
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
に本書こそ絶好の版なれ
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
にもと、玄徳はすぐ暇を告げて、水鏡先生の草庵を去った。そして十数里ほどくると、飛ぶが如く一手の軍勢のくるのに出会った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
満枝は、彼のことばの決していつはりならざるべきを信じたり。彼の偏屈なる、にさるべき所見かんがへを懐けるも怪むには足らずと思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ラガドの会話体とは凡そ天地の相違のある、この黄色一元のランプを振つて、私はにも原始的な信号をはぢめたのである。
一度ひとたび静岡の地を踏んで、それを知らない者のない、浅間せんげんの森の咲耶姫さくやひめに対した、草深の此花このはなや、にこそ、とうなずかるる。河野一族随一のえん
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さるにても人の心の頼めがたきは翻覆手ほんぷくしゅにも似たるかな、昨日の壮士は今日の俳優、妾また何をか言わん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。人界にんがい不定ふぢやうのならひ、是非も無き御事とは申せ、想ひまつるもいとかしこし。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏阿弥陀仏。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
〽仮りの姿や友千鳥、野分のわき汐風いずれもに、かかる所の秋なりけり、あら心すごの夜すがらやな……
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとゝせ二月のはじめ、用ありて二里ばかりの所へいたらんとす、みな山道やまみちなり。母いはく、山なかなれば用心なり、つゝをもてといふ、にもとて鉄炮てつはうをもちゆきけり。
にもつともと頭を垂るるほどの仕儀、ましてぽつと出の田舎親爺、伜の不所存ゆゑ、こんなおつかない処へ来ねばなんねえと、正直を看板の赤毛布あかげつとに包まれたる連中などは
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
『二十四孝』十種香じっしゅこうの幕明を見たるものは必ずやかたの階段に長く垂敷たれしきたる勝頼かつより長袴ながばかまの美しさを忘れざるべし。浅倉当五あさくらとうごが雪の子別れには窓の格子こそに恩愛のしがらみなれ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
花をつけた春の樹木のように、生命と愛との豊饒ほうじょうな重みを、少しも感ずることのない魂こそ、にも不幸である。世間は名誉と幸福とをその上に積み重ぬるとも、それは死骸しがいに冠するものである。
「ああ、身も婦人心も不仁慾は常、に理不尽のたくみなりけりとね。」