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この世阿弥の「ける」という言葉「けかへる」という言葉は、さきの「峠を越える」という言葉と同じく重大なものであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
くれたけの根岸の里の秋けて、片里が宿の中庭の、花とりどりなる七草に、はじの紅葉も色添えて、吹く風冷やけき頃とはなりました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
秋もけ、十月も半ばをすぎると、相模の山々の漆やぬるでに朱がし、月のない夜闇がひとしお色濃く感じられるようになった。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けてから、山にも雨が少なく、苔や下草まで乾いていたが、天も眼をおおわずにいられぬものか、この日、徐々に雲が下りていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盆とはいへ、この辺りでは八月にそれを行ふ習慣であるから、もう夏もすつかりけて、ことに昼は蝉の音にさへ深い哀愁が流れてゐた。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
厳石いそうへに生ふる馬酔木あしびを」と言はれたので、春がけて、夏に入りかけた頃だと知つた。おれのむくろは、もう半分融け出した頃だつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
机竜之助のいるところはかの白根しらねの麓。こうしているうちに秋もけてしまって、雪にでもなっては道の難儀が思いやられる。
けてねむ合歡ねむはなの、面影おもかげけば、には石燈籠いしどうろうこけやゝあをうして、野茨のばらしろよひつき、カタ/\と音信おとづるゝ鼻唄はなうたかへるもをかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かうけて、天地の間にそよとも音せぬ後夜ごやの靜けさ、やゝ傾きし下弦かげんの月を追うて、冴え澄める大空を渡る雁の影はるかなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
行く/\としけて武蔵野の冬深く、枯るゝものは枯れ、枯れたものは乾き、風なき日には光り、風ある日にはがさ/\と人が来るかの様にひびく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日がけて木深い溪が日の光に煙つた樣に見ゆる時何處より起つて來るのだか、大きな筒から限りもなく拔け出して來る樣な聲で啼きたてる鳥がある。
秋がだんだんけてゆくにつれて、紺碧の空は日ましにその深さを増し、大気はいよいよその明澄さを加へてくる。
木犀の香 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
わが手首に、小さく時を刻むもののひびきが、子の寝息に和し、子の寝息もまた、おのづから、この小さな、時の刻みに和して、あさい夏の夜がける。……
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
暁天の白むまで眠り得ず、翌朝日けて起き出でたるは、いつの間にか明方の熟睡に入りたりしと覚ゆ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
居てくれたのか……それもこの頃では秋益〻けて、朝晩の風は冷え性の私に寒いくらゐ、時折、夜中の枕に聞こえて来るその声も、これ恐らくは夢でありませう。
入庵雑記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
けた若葉がおのおの影を持ち瓦斯体のような夢はもうなかった。ただ溪間にむくむくと茂っているしいの樹が何回目かの発芽で黄な粉をまぶしたようになっていた。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
或夜、かうけてから、私が獨り御廊下を通りかゝりますと、あの猿の良秀がいきなりどこからか飛んで參りまして、私の袴の裾を頻りにひつぱるのでございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
翌朝お庄が目を覚ました時分は、屋内やうちがまだひっそりしていたが、立て廻した屏風びょうぶの外の日影はけていた。昨夜ゆうべ寝室ねま退けてからも、みんなはいつまでも騒いでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浅草寺せんそうじの十二時の鐘の音を聞いたのはもう半時はんとき前の事、春の夜はけて甘くなやましく睡っていた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
能はさがらねども、ちからなく、やうやう年けゆけば、身の花も、よそ目の花も失するなり。
野分に吹落された柿の蔕がこずえに残っている、秋もかなりけた場合じゃないかという気もする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その内にも秋は次第にけて旅寝の夜のふすまを洩れる風が冷たく身にしむようになってくるにつれて、いつになったら、果てしの着くとも思われない愛欲の満たされない物足りなさに
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
真夏日の光はげしくけにけり耳に入り来る発電機ダイナモの音 (一九二頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
仰げば無量無数の惑星恒星、らんとして、吁嗟ああ億兆何の悠遠いうえんぞ、月は夜行性のの如く、けていよいよ白く、こゝに芙蓉ふようの蜜腺なる雲の糸をたぐりて、天香を吸収す、脚下紋銀白色をなせる雲を透かして
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
秋もややけて、目黒はもうそろそろ栗の季節である。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
……かうけて曉方あけがた近く……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
さはれ夜けて眠る時
四十歳から五十歳には、自分の肉体にふさわしい芸をえらび、そこからさらにけかえるところの芸風が生まれいでるというのである。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
また一時いつとき廬堂いほりだうを廻つて音するものもなかつた。日は段々けて、小昼こびるの温みが、ほの暗い郎女の居処にも、ほと/\と感じられて来た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
日がけて、木深い溪が日の光に煙つた樣に見ゆる時、何處より起つて來るのだか、大きな筒から限りもなく拔け出して來る樣な聲で啼き立つる鳥が居る。
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
時として、何故なぜとも知らずホッと洩らした溜息の引き去るあとに耳を澄ますと、朝もけた篁の懶い沈黙しじまから、筍の幽かに幽かに太る気配が聴かれたやうに思はれてしまふ。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
一夜時頼ときよりかうけて尚ほ眠りもせず、意中の幻影まぼろしを追ひながら、爲す事もなく茫然として机にり居しが、越し方、行末の事、はしなく胸に浮び、今の我身の有樣に引きくらべて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
七八人しちはちにんむらがりむに、おの/\つまたいしてならしてむつまじきことかぎりなし。かうけてみなわかとき令史れいしつまうまる。こしもとまたそのかめりけるが心着こゝろづいてさけんでいはく、かめなかひとあり。と。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
長者のふうというか、ちょうは五十年配だが頗る大容おおような人柄に見える。あるいは義心の人に報ゆるに義心をもって接しようと努めているのかもわからない。灯はけて酒興もたけなわに入ると
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かうけてから、私が独り御廊下を通りかゝりますと、あの猿の良秀がいきなりどこからか飛んで参りまして、私の袴の裾を頻りにひつぱるのでございます、確、もう梅の匂でも致しさうな
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
土ほてりけつつもあるか日のさかり爪立ちてしろき猫はかまへぬ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
淡く ほんのけてゐるやうだ。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
また一時いっとき廬堂いおりどうを廻って、音するものもなかった。日は段々けて、小昼こびるぬくみが、ほの暗い郎女の居処にも、ほっとりと感じられて来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
けかえる」と申しますか、世阿弥のいうように、下り坂ともいうべき、筆少なく、音少なく空虚と、静寂の部分が多くなっていくのであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
夜はますますけて、そらはいよいよ曇りぬ。湿りたる空気は重く沈みて、柳の葉末も動かざりき。歩むにつれて、足下あしもとくさむらより池にね込むかわずは、つぶてを打つがごとく水を鳴らせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何時の頃何処の記憶か知らないが、半ば崩れた白壁に一つ裸木の物倦げな影が、秋も深くけてゐる、いろいろの顔やいろいろの女、古い埃に煤けほうけて沸沸と浮んで消える映像の中に
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
土ほてりけつつもあるか日のさかり爪立ちてしろき猫はかまへぬ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
けてのこる浅間と画家一人
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巌岩いその上に生ふる馬酔木あしびを」と聞えたので、ふと、冬が過ぎて、春もけ初めた頃だと知った。おれのむくろが、もう半分融け出した時分だった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あまづたふ日はまだけず草ぶかにはずみてこもらふ幼な吾が子や
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
護摩たくと築地ついぢの照りに映り来る人かげ見れば日もけたらむ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
代々木の空若葉盛りあがる色見れば青あり緑あり時くるあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
代々木の空若葉盛りあがる色見れば青あり緑あり時くるあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蝉しぐれしづかにかよふ晝けて子と組み立つる名古屋城の型
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
蝉しぐれしづかにかよふ昼けて子と組み立つる名古屋城の型
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)