はかりごと)” の例文
保科ほしな弾正槍弾正やりだんじょう、高坂弾正逃弾正にげだんじょう」を以てあえて争わなかったところは、沈勇にしてはかりごとを好む人傑の面影を見ることもできます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今ごろは、かの女狐めぎつね男狐おぎつね、知る人もなしと額をあつめて、はかりごとの真最中でござろう。そこへ乗りこんで、驚く顔を見てやるのも一きょう……
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの山国兵部のはかりごとで、奇兵に回ったものですから、ようやく打ち破りはしたものの、ずいぶん難戦いたしたようなはなしを承りました。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勝家ははかりごとの手段を密々、玄蕃允にさずけ、玄蕃允は弟たちと計って、敵の腹中に毒を盛るの隠密を放つこと幾度か知れなかったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楚の鐘鼓をして声を出さざらしめんに楚の士卒を整え軍立いくさだてをする事がなるまい。それ人の使を殺し人のはかりごとを絶つは古の通議にあらざるなり。
そして伊藤一刀斎なども、詭計をもって敵を計ると云う事を極意の一つにしているし、敵のこのはかりごとに己が心の乗らぬように常にいましめている。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
甚九郎は恐れて折角のはかりごとをうやむやにしてしまった。とても女を出て往かすことはできないから、じぶんから逃げようと思った。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あんなに限って、そりゃきっと夢中になって、お前さんの事なんざおっことして、お宝を拾うから、とそのお前さんはかりごと、計略?
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
住持はなぜかと問うたが、九郎右衛門は只「はかりごとは密なるをとうとぶと申しますからな」と云ったきり、外の話にまぎらした。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
将門傾国のはかりごときざすといへども、何ぞ旧主を忘れんや。貴閣且つ之を察するを賜はらば甚だ幸なり。一を以て万をつらぬく。将門謹言。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「それは結構です。面従めんじゅうちゅうにあらず。もっとこっちへおよりなさい。はかりごと帷幄いあくの中にめぐらして勝ちを千里の外に決しようではありませんか」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何か話のついでには拝借地の有名無実なるをき、等しく官地を使用せしむるならば之を私有地にして銘々めいめいに地所保存のはかりごとさしむるにかずと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
丁度、養魚場の金蔵なども柳下の家に集って酒を飲みながら何かひそひそと額をあつめてはかりごとふけっているところだった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
そこで母の神が「これは、スサノヲの命のおいでになる黄泉の國に行つたなら、きつとよいはかりごとをして下さるでしよう」
馬場和泉守こと槍垣の門徒共を語らひ当家を傾けんとして寄々より/\はかりごとめぐらす由、その證拠は此れを御覧あるべしとて、懐中より一通の密書を取出し給ふ。
「アア、分った。わしらは賊のはかりごとにかかったのだ。あの洞穴の上に大きな池を作って、穴を掘れば、必ずその底へ掘り当てる様に仕掛けてあったのだ」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暫くは日の天にちゆうするが如き位にありて、世の人の讚歎の聲に心惑ひ、おのがわざの時々刻々くだりゆくをさとらず、若し此時に當り早くはかりごとをなさゞるときは
お秀が八木某と云ふ悪漢と共にはかりごとして十四歳になる小娘を一円で売買し、無理に淫売を強いたことが発見せられて、警察署へ引致せられたことが出て居た。
すなはち従ひ来れる馬士まごを養ひて家人となし、田野を求めて家屋倉廩そうりんを建て、故郷京師けいし音信いんしんを開きて万代のはかりごとをなすかたわら、一地を相して雷山背振の巨木を集め
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
貧乏してまでも同志を欺く苦肉のはかりごとをしておかみの御用を勤めていたというなら、それこそ楠正成くすのきまさしげほどでなくとも赤穂あこうの義士ぐらいに値踏み出来る国家の功労者である。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
はかりごと破れなばよろこんで自分は自ら死をとらん、自害せんと第三の聴取書作成に稍一夜を費しました
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その男がはかりごとをめぐらしているんだが、君はこの瞬間、その男がどこにいると思うかね?——その男と云うのは、ほかでもない、この船の牧師さ。——牧師、その人なんだよ。
「今日は、後藤又兵衛と貴殿とともに存分、東軍に切込まんと約せしに時刻おそくなり、後藤を討死させし故、はかりごと空しくなり申候。これも秀頼公御運の尽きぬるところか」
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はかりごといよいよ出でていよいよたがい、あるいは神奈川に返り、あるいは横浜に赴き、あるいは外艦をうて羽根田にいたるも、陸上より艦を眺め、陸上より艦を追うのみにして
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
せい桓公くわんこうもつたり。諸矦しよこう(六)九合きうがふし、天下てんか(七)きやうする、管仲くわんちうはかりごとなり管仲くわんちういは
そしてアベコベにカケコミ教のはかりごとだと見せかけたのだよ。これがまち子殺しのカラクリさ。ついでに附言しておくが、快天王の声というのは、世良田が術を使っているのさ。
仮初かりそめならぬ人のために終身のはかりごとだになしやらずして今急に離縁せん事思いも寄らず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
とはいえ事に臨んで恐れ、はかりごとを好んで為すは勇士の為すところと、既に孔夫子も申しておる。されば暫くこの城を落ちて、正成自害したる態になし、敵の耳目を一時眩まそうと思う。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでは今年ことしはじめてだのむかしからも一年いちねんはかりごと元旦ぐわんたんにありといふから、おまへさんも
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いかに戦国のならいとは云え敵と味方に分れてはかりごとの裏をかき合って居るのだとは……蘇秦の豪傑肌なあから顔と張儀の神経質な青白い顔とが並び合って落日を浴びながら洛邑の厚い城壁に影を
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なぜならば英国が直接にチベットと合戦を開くすることは損ですからして、英領インド政府からネパールへ幾分の助けをしても、必ずこの戦争を成り立たしめるようなはかりごとをなすに相違ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
身脱みぬけの出来ぬおれの負債を。うむ、それもよしこれもよし。さてはかりごとをめぐらそうか。事は手ッ取り早いがいい。「兵は神速」だ。駈けを追ってすぐに取りかかろうぞ。よし。始めよう。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
武はとうとう叔父の尸をかついて帰って来たが、哀みと憤りで心が乱れてそれに対するはかりごとがまとまらなかった。武はそこで七郎から謀を得ようと思ったが、七郎はさらに見舞にも来なかった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼はこの暑い休暇中にも卒業後の自分に対するはかりごとゆるがせにはしなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愛吉に、訳を尋ねると、やっこ人間の色はねえ。据眼すえまなこになって饒舌しゃべった、かねての相談、お夏さんのはかりごとというのをお聞きなさい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを見て成程良工のはかりごとはうまいものだ。ましていわんや、弥陀如来の善行方便をやと思って疑いが晴れて信心が決まった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はかりごとを施すをもって、ひそかに得意とする勝家が、山路将監やまじしょうげんへ目をつけたのは、さすがは“敵のやまい”を知るものであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謝貴しゃきもっ都指揮使としきしとなし、燕王の動静を察せしめ、巍国公ぎこくこう徐輝祖じょきそ曹国公そうこくそう李景隆りけいりゅうをして、はかりごとあわせて燕をはからしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
意地でもはかりごとの裏かいてやりとうなりなさるし、あんな心にもないことして仲悪なかわるなった思いなさったら、なおのこと未練残って、どないぞして仲直りしたい
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今の歐羅巴の美術は大抵沒理想派のたまものなり。沒理想派の賜をばわれ受けて、沒理想派の論をばわれ斥く。さればへきを留めてかへすを我山房のはかりごととするなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
既に無に帰したる上は之を無として、生者は生者のはかりごとを為す可し。死につかうること生に事うるが如しとは人の情なれども、人情は以て人事の実を左右す可らず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこでシホツチの神が「わたくしが今あなたのためにはかりごと𢌞めぐらしましよう」と言つて、隙間すきまの無い籠の小船を造つて、その船にお乘せ申し上げて教えて言うには
策士のことだから、何んなはかりごとめぐらすかも分らない。と気がついて、うっかり安心は出来ないと思った。折から小宮君の言葉が一種の霊感のように頭の中にひらめいた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
庄太郎は最早もはや十分安心することが出来た。そして、昨日の刑事がいずれ又やって来るであろうが、彼が来た時にはああしてこうしてと、手落なくはかりごとめぐらすのであった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
悔悟憤発ふんぱつして国家に尽くす志あるのともがらは寛大の思し召しをもって御採用あらせらるべく、もしまた、この時節になっても大義をわきまえずに、賊徒とはかりごとを通ずるような者は
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はかりごと若し中途にして破れなば吾は絞首台に上らず自分から自害して男を見せん。夫れまでは吾は監獄に行き大福餠々々と精神病となり精神病者として取扱いを向う或期間受けん。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
妾らここに見るあり曩日さきに女子工芸学校を創立して妙齢の女子を貧窶ひんるうちに救い、これにさずくるに生計の方法を以てし、つねさんを得て恒の心あらしめ、小にしては一身いっしんはかりごとをなし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
また郭太僕かくたいぼくがかつて自分をにらみつけたことを思いだして、そこで、呂給諫ろきゅうかん、及び侍御の陳昌たちを呼んではかりごとを授けたが、翌日になると郭太僕を弾劾した上書が彼方此方から出てきた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
他の従者これを留め、この里に住む八十余の翁に就いてはかりごとを問う。さればとて新しき青草を竿さおの先に縛り付け、馬の後足の間より足に触れぬよう前足の間へ挿し入れば、馬知りて草をむ。
長崎高資たかすえはかりごとを用い承久の例にのっとって、人臣の身としては不埓ふらちにも、主上を絶島にうつし参らせ、大塔宮様をとらえたてまつり、ともかくもせんものと計画し、このむねを六波羅へ申しやった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)