私語さゝや)” の例文
らおめえ、手洟てばなはかまねえよ」といつたりがら/\とさわぎながら、わら私語さゝやきつゝ、れた前掛まへかけいてふたゝめしつぎをかゝへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
併し二人の婦人はその墓地の手前で立ち止まり、何かを私語さゝやくらしく左手の道を指し、そして非常な早足で其方へ曲つて行つた。
りながら三四郎のみゝそばくちを持つてて、「おこつてらつしやるの」と私語さゝやいだ。所へ下女が周章あわてながら、おくりにた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「もう、これで会はんぞ!」と今一度繰返し私語さゝやきつゝ、てれ隠しに其処にあつた手箒か何かを持つて、用ありげに入口の方へ出て行つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
梅子は思はず赧然たんぜんとしてぢぬ、彼女かれの良心は私語さゝやけり、なんぢかつて其の婦人の為めに心に嫉妬しつとてふ経験をめしに非ずやと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今ごろは世の栄華に誇り切つた目を上げて、新らしい恋人の耳に私語さゝやいて居ぬとも限らぬ。「昔の事は昔の事。」と男の肩につかまつて居るかも知れぬ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
斯う用心深く考へても見た。畢竟つまり自分が二人の暗い秘密を聞知つたから、それで斯う気がとがめるのであらう。彼様あゝして私語さゝやくのは何でも無いのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その間、年とつた一人は身體を前後に搖り、若い二人はひそ/\私語さゝやき合つた。「まア、どうでせう!」
と小林氏の子息に私語さゝやき申しさふらふ。光るにたはぶるると覚えて心もうれしくさふらひき。この港に許嫁いひなづけを見給ふ三人みたりの花嫁の君の顔のぞき見ずやと云ふ人のありしはたれさふらひけん。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「おら、いやだ、明日あした学校へ行かうもんなら、今まで忘れてゐたことを思ひ出して、みんなに私語さゝやかれるんだ、それがたまるけえ、おら、もう学校へ行かん、行かん!」
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
事務員たちは手品師の困惑してゐるらしいさまを見て、幾分か嬉しい気分になつて私語さゝやき合つた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
不安ふあん段々だん/\あがつてた。それ打消うちけさうとするそばから、「あの始終しゞうひと顔色かほいろんでゐるやうなそこには、何等なんらかの秘密ひみつひそんでゐるにちがひない。」と私語さゝやくものがある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
我が生みの母も初めて孫の顔を見し時、小生に気の毒の感あるらしき様子にて握手致し候。小生の事務所に勤め居る同僚は、昨日小生が出勤せし時、互に顔を見合せて私語さゝやき居候。
友なる男は、アントニオ、物にや狂へると私語さゝやぎて、急に婦人をきつゝ、巡査スビルロ、希臘人、牧婦などにいでたちたる人の間を潛りてのがれ去りぬ。その聲を聞くに、ベルナルドオなりき。
兎に角重右衛門は此頃からそろ/\評判が悪くなつたので、その祖父の孫に対する愛を知つて居る人は、他村の者までも、重右衛門の最後の必ず好くないといふ事を私語さゝやき合つたのである。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其後そのご院長ゐんちやうアンドレイ、エヒミチは自分じぶん周圍まはりもの樣子やうすの、ガラリとかはつたことやうやみとめた。小使こづかひ看護婦かんごふ患者等くわんじやらは、かれ往遇ゆきあたびに、なにをかふものゝごと眼付めつきる、ぎてからは私語さゝやく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と云いながら耳の傍へ口を寄せ、何やら暫くこそ/\私語さゝや
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さうしてとげえた野茨のばらさへしろころもかざつてこゝろよいひた/\とあふてはたがひ首肯うなづきながらきないおもひ私語さゝやいてるのに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ほかの連中は隣り同志で何だか私語さゝやき合つて居る。手持無沙汰なのは鉛筆の尻に着いて居る、護謨の頭でテーブルの上へしきりに何か書いて居る。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と文平は女の耳の側へ口を寄せて、丑松が隠蔽かくして居る其恐しい秘密を私語さゝやいて聞かせるやうな態度を示した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
が、あのこひ秘密ひみつ私語さゝやいてゐるかとおもふと、腹立はらだゝしくもあつたが、あはれにもおもつた。あはれは崇高すうかうかんじを意味いみするので、つまむかし客観かくゝわんときであるのは、ふまでもない。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
父はまるで隣室に人でも居るかの様に、かすれた声で私語さゝやいた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
彼等は私の寢床ベッドの傍でかうした言葉を私語さゝやき交してゐた——
青年は彼の耳に或る事を私語さゝやきそして去つた。
何事をか私語さゝやき合ひぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
音作の女房も省吾の側へ寄つて、軽く背をたゝいて私語さゝやいた。軈て女房は其手に槌の長柄を握らせて、『さあ、御手伝ひしやすよ。』と亭主の方へ連れて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見るや否や、二三歩後戻あともどりをして三四郎のそばた。ひと目立めだゝぬ位に、自分の口を三四郎の耳へ近寄せた。さうして何か私語さゝやいた。三四郎には何を云つたのか、少しもわからない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さけ其處そこてんじた。にはの四ほん青竹あをだけつたなはあかあをきざんだ注連しめがひら/\とうごきながら老人等としよりらひとつに私語さゝやくやうにえた。陽氣やうきにはへ一ぱいあたゝかなひかりなげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)