熟々つく/″\)” の例文
我も昔一たびかの女を見きと覺ゆ。若し其人ならば、猶太教徒にあらずして加特力教徒なること疑なし。汝も熟々つく/″\彼姿を見しならん。
「いや、しにして呉れ、花がお前のものなら、幾ら見たつて面白くない。自分のものにして初めて熟々つく/″\と見てゐられるのだから。」
荷札チェッキ扱ひにして來た、重さうな旅行鞄を、信吾が手傳つて、頭の禿げた松藏に背負してる間に、靜子は熟々つく/″\其容子を見てゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
熟々つく/″\見て感心なし今の話しには母御の紀念かたみの此櫛と云はるゝからは片時も忘れ給はぬ孝心かうしんを天道樣もあはれまれ必ず御惠みなるならん能々父子てゝご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぼく先生せんせい對座たいざして四方山よもやま物語ものがたりをしてながら、熟々つく/″\おもひました、うるはしき生活せいくわつがあるならば、先生せんせい生活せいくわつごときはじつにそれであると
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一寸このくしや/\になつた黒いたてがみを、かすだけですわ。私近くであなたを熟々つく/″\見たときには、吃驚りするほどでした。
と慌てゝ頭巾の裏を返して見ると、白羽二重のきれが縫付けて有りまして、それへ朱印が押してございますのを熟々つく/″\
勘次かんじはおしなのことをいはれるたびに、おつぎの身體からだをさうおもつては熟々つく/″\たびに、おしな記憶きおく喚返よびかへされて一しゆがた刺戟しげきかんぜざるをない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
熟々つく/″\考へる迄も無く吉村忠雄氏又は次郎生の如きは「上下卑賤の階級」の最も卑賤なる部類に屬する人に違ひない。
ひらくでもなしに、弁当べんたう熟々つく/″\ると、彼処あすこの、あの上包うはつゝみゑがいた、ばら/\あし澪標みをつくし小舟こぶねみよしにかんてらをともして、頬被ほうかむりしたおぢいあささまを、ぼやりと一絵具ゑのぐあはいてゑがいたのが
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
後には「己の著物には方々に鍼がある」と叫んで狂奔し、やゝもすれば戸外に跳り出でむとした。妻は榛軒の許に馳せ来つて救を乞うた。榛軒は熟々つく/″\聴いた後に、其顔を凝視して云つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
まァ、眞個ほんとう奇態きたいゆめだこと、さァ、おちやみにきませうね、もうおそいから、そこあいちやんは、あがるやいなしました、けるも、熟々つく/″\奇妙きめうゆめであつたことをかんがへながら。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
どちら向いても野の中に唯一人取残されて、昨日きのふ迄の仲間が今日は散々ちり/″\になつて行く後影うしろかげを見送るでもなく、磨いたように光る線路を熟々つく/″\と眺めれば線路は遠く/\走つて何処いづくともなく消えて行く。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
熟々つく/″\見ていと不審氣いぶかしげにお前はもしや藤崎道十郎殿の御子息しそくの道之助殿では御座らぬかといふこゑ聞て後家のお光は心うれしく夫の名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
多くの代議士にいぬのやうな日本語で喋舌しやべらしておいて、黙つてそれを聴く事の出来る日本人の無神経さが熟々つく/″\思はれる。
といいながら松葉や麁朶を焚べ、ちょろ/\と火が移り、燃え上りました光で、お賤が尼の顔を熟々つく/″\見ていましたが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あとではなみいはちつけるやうしばらくさわいだ。わかをんなみなぶんわらつて、また痘痕あばたぢいさんを熟々つく/″\てはおもしてたもとくちおほうた。到頭たうとうきま惡相わるさうにしてぢいさんもつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、白い切り立てのしやで特別仕立のうはぱりのやうなものをこしらへ、それを着込んでにこにこもので王献之のとこへ着て往つた。王献之は熟々つく/″\それを見てゐたが
きかれ其方共顏を上よと有しに兩人は恐る/\少しかほあぐる時駕籠のりものの中より熟々つく/″\と見らるゝに(此時は所謂いはゆる誠心せいしん虚實きよじつ眞僞しんぎおもてあらはるゝを見分る緊要きんえうの場なりとぞ)
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
翌年寛政八年ちょうど二月三日の事でございましたが、法蔵寺へ参詣に来ると、和尚が熟々つく/″\新吉を見まして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其の顔を新吉が熟々つく/″\見ると夢に見ました兄新五郎の顔に生写いきうつしで、新吉はぞっとする程身の毛立って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よく訊いてみると、先頃何処かの画会に、保太郎氏が半截はんせつに山水画をいて出品した事があつた。すると、大阪見物に出て来た、雲州辺の百姓がそれを見て熟々つく/″\感心した。
と信実心から説き諭され、悪人ながら小平はきもに感じましたか、黙然として腕を組み、うつむいて何か考えて居りましたが、暫くして首をもたげ、多助の顔を熟々つく/″\見まして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
幾度読み返してみても同じ事なので、馬越氏はお婆さんのやうな顔をゆがめてにやつと笑つた。そしてこんな場合笑つて済ます事の出来る自分は、何といふ悧巧者だらうと熟々つく/″\また感心をした。
圖書に人知れず会って、とくと異見をして、圖書が改心の上は元通りお前さんと添わしたく思います、其れゆえわたしは是から帰って圖書に逢って、当人に熟々つく/″\意見をしますから
荷足の仙太は提灯の燃上る火影に熟々つく/″\と侍の姿を見済まして板子を取直し、五人力の力をきわめて振りかぶり、怪しい侍の腰のつがいねらい、車骨くるまぼね打砕うちくだこうという精神でブーンと打込みますると
重三郎は拵えなどは見は致しません、すぐに引抜いて見ましたなれども、粟田口國綱の刀は見るたびみだれが違うものだから、心を静めて熟々つく/″\見ますると、疑いもない國綱なれば、刀を鞘に収め
口移しに水をふくませ、お竹を□□めてわが肌のあたゝかみで暖めて居ります内に、雪はぱったり止み、雲が切れて十四の月が段々と差昇ってまいる内に、雪明りと月光つきあかりとで熟々つく/″\お竹の顔を見ますと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
辛抱次第で行々ゆく/\暖簾のれんを分けて遣る、其の代り辛抱をしろ、かりそめにも曲った心を出すなと熟々つく/″\御意見下すって、あんまり私を贔屓ひいきになすって下さいますもんだから、番頭さんがそねんでいやな事を致しますから
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
という御沙汰で、紅梅は熟々つく/″\両方を見較べて清左衞門に向い
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山三郎はお蘭の話を熟々つく/″\聞いておりましたが