海豚いるか)” の例文
象のやうな身体を猫背にして勝つても負けても海豚いるかのような細い眼は柔かく眠つてる。四十八手の裏表も彼に対しては桁が外れる。
うかとおもふと、ひざのあたりを、のそ/\と山猫やまねこつてとほる。階子はしごしたからあがつてるらしく、海豚いるかをどるやうな影法師かげぼふしきつねで。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同じヤルート環礁の内のA島へ小さなポンポン蒸汽で渡った時、海豚いるかの群に取囲まれて面白かったが、少々危いような気もした。
みん仕方しかたなしに一しよたんだ』と海龜うみがめひました、『どんなかしこさかなでも、海豚いるかれなくては何處どこへもけやしないもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
始まりかゝつた擾亂のたゞなかで、彼女は、暴風雨が元氣づける大きな海豚いるかのやうに、戲れてでもゐるやうなふうをしてゐた。
折から海豚いるかの群舷側に現る。横転逆転。飛び上るもの、捻じれるもの。次ぎから次へと現れる。中には巨大なふかの腹もある。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
日本女学園のやんちゃな連中で、片瀬かたせ西方にしかたにある鮎子さんの別荘を根城ねじろにして、朝から夕方まで、海豚いるかの子のように元気いっぱいに暴れまくる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
海豚いるかのような尨大な体躯で、胡座すると舟の胴の間は一杯になる。小さな私は、舳の小間にちまぢまとしてしまった。
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
提督は起きるとすぐ最上甲板の「鋼鉄の宮殿」をすっかりあけはなち、特別に造らせた豪華な専用プールにとびこみ、海豚いるかのように見事に泳ぎまわる。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
民間にて天狗の骸骨がいこつと称して保存せるものがある。これは魚の頭骨に相違ない。多分、海豚いるかの骨ならんということじゃ。また、天狗の爪というものがある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
海豚いるか』『くじら』『竜巻たつまき』『黒潮くろしお』『海賊かいぞく』『コロンブス』——この六隻はA国海軍が自慢する大潜水艦で、『八島』や『千代田』に負けぬほど強いやつだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
蛸がすぐにくひつかないのも道理で、その捕へてゐるのは、蛸にとつては恐しい大敵の海豚いるかだつたのです。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
『エンサイクロペジア・ブリタンニカ』十一版二十四巻にかかる大海蛇譚の原因は海豚いるかや海鳥や鮫や海狗や海藻が長く続いて順次起伏して浮きおよぐを見誤ったか
人か、海驢あしかか、海豚いるかかと、月の光りで海のうえを透かしてみると、どうもそれは人の形であるらしい。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
戦争が始まり、食いものは、どんどん無くなり、エーワンも何も、定食は五円以下のマル公となり、巷には、鯨のステーキ、海豚いるかのフライのにおいが、漂うに至った。
食べたり君よ (新字新仮名) / 古川緑波(著)
そして海霧ガスれた夕方など、択捉えとろふ島の沖あたりで、夥しい海豚いるかの群にまれながら浮流うきながされて行く仔鯨の屍体を、うっかり発見みつけたりする千島帰りの漁船があった。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
海豚いるかが門内から出て来る、河童が門外でこれを迎える、さて、二人はここで相携えて、どこへ、何しに行く? と見れば、二人は門を左にした鋪石のところへ来ると
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たとへば背の弓をもて水手かこ等をいましめ、彼等に船を救ふの途を求めしむる海豚いるかの如く 一九—二一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そして蹴飛ばしてある夜着が海豚いるかの腹わたの樣に赤い裏を出してゐる床の上に坐わらせる。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それであくる朝早く、天皇をおつれ申して海岸へ出て見ますと、みんな鼻の先にきずをうけた、それはそれはたいそうな海豚いるかが、浜じゅうへいっぱいうち上げられておりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かえって僕は、アリオンを救った方が、音楽好きの海豚いるかの義務ではないかと思うのですよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
石は海豚いるかのやうに、丸い背を出し、重なり合つて水にひたつてゐる、峡谷が大きくふくれて、崖の上には、杉林がこんもりと茂つてゐるかとおもへば、赤松が直射する烈日の下で
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
少年は舟の上の仲間に、そう呶鳴って置いて、海豚いるかの様に身をくねらせて、水底みずそこ深くもぐって行った。舟遊びの人が落した財布などが、時として底の泥深く埋まっていることがあるからだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ジョバンニはまるでたまらないほどいらいらしながら、それでもかたく、くちびるんでこらえてまどの外を見ていました。そのまどの外には海豚いるかのかたちももう見えなくなって川は二つにわかれました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
破風はふに続く破風、大きな銅の瓦、屋根の角稜への重々しいリブ、偉大な屋根の堂々たる曲線、最高の屋梁むねの両端に、陽光を受けて輝く、純金の鱗を持つ厖大な海豚いるか等で、見る者に驚異の印象を与える。
先日、朝日新聞に出てゐた、波を切る海豚いるかの寫眞のやうな好い寫眞——巧くとれて、それでゐて、海豚はいるかの美しさを見せてゐる、あんなふうな自分の顏にお目にかかりたいものだと思つてゐる。
私の顔 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
が、葦原醜男は彼にも増して、殆ど海豚いるかにも劣らない程、自由自在に泳ぐ事が出来た。だから二人のみづらの頭は、黒白二羽のかもめのやうに、岩の屏風びやうぶを立てた岸から、見る見る内に隔たつてしまつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
譬へば魚群おほいなる海豚いるかに追はれ、逃げ泳ぎ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
汐ざゐどよむ海境うなざか海豚いるかの列の見えがくる
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
小初は「海豚いるかよろこび」を歓び始める。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二 海豚いるか参詣のこと
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
海豚いるかにかね。」
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
海豚いるかよな
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
遠近をちこちやまかげもりいろのきしづみ、むねきて、稚子をさなごふね小溝こみぞとき海豚いるかれておきわたる、すごきはうなぎともしぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『大井川のくじらは、婦人にしてその味を知るなり』と、言うことからそれは別として山鯨、なめくじら、海豚いるかに至るまで、その漿しょうを舌端に載せてみた。
海豚と河豚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
私はよろこんで、ふなばたに結びつけていた左腕の蔓をとき、いざ馬車へ乗ろうとすると、大きな海豚いるかがはねあがって、私の顔に冷たい海の水をいっぱいに浴びせました。
手紙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
無論むろんうとも』とつて海龜うみがめは、『だから、さかなわたしところて、旅行りよかう出懸でかけるンですがとはなすならば、わたし何時いつでも「どんな海豚いるかと一しよに?」とたづねる』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
突然海豚いるかの群のようにきらきら光る銀色の魚雷が群をなして船側目がけてとびこんだ——と思ったら、次の瞬間、天地も裂けとぶような大爆発が船内にひびきわたり
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
太平洋には金波銀波きんぱぎんぱが入り乱れて、海豚いるかの群が、戦近しとも知らず、遊びたわむれている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
海豚いるかだなんてあたしはじめてだわ。けどここ海じゃないんでしょう」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「なに、音楽好きの海豚いるかですって⁉」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
河童が海豚いるかを呼んでいる。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海豚いるかの列のすむところ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
海豚いるかよな
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
宿縁にって仏法を信じ、霊地を巡拝すると聞く、あの海豚いるかの一群が野山の霧を泳いで順々に朦朧と列を整えて、ふかりふかりと浮いつ沈んつ音なく頭を進めるのに似て
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたし胡粉ごふんだつたら』とつてあいちやんは、うたのことをおもひながら、『わたしなら海豚いるかつてやつたものを、「おかへりよ、おまへなんぞとは一しよたくもない!」ッて』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
近年、お正月の門松の林のなかに羽織袴をつけた酔っ払いが、海豚いるかが岡へあがったようなさまでぶっ倒れている風景にあまり接しなくなったのは年始人お行儀のために、まことに結構な話である。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
海豚いるかと話しながら、アラフラ海を漂っているそのときでした。
手紙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
海豚いるかです」カムパネルラがそっちを見ながら答えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
氷見鯖ひみさばの塩味、放生津鱈ほうじょうづだら善悪よしあし、糸魚川の流れ塩梅あんばい、五智の如来にょらい海豚いるか参詣さんけいを致しまする様子、その鳴声、もそっと遠くは、越後の八百八後家はっぴゃくやごけの因縁でも、信濃川の橋の間数まかずでも
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)