こす)” の例文
思いのほか、声だけは確であったが、悪寒がするか、いじけた小児こどもがいやいやをすると同一おなじすくめた首を破れた寝ン寝子の襟にこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船頭の半纏はんてんや、客の羽織などを着せて、こすったり叩いたり、いろいろ介抱に手を尽していると、どうやらこうやら元気を持ち直します。
弥市は下唇をだらっと垂らし、それを手でこすった。それからひどく慌てて、なにやら叫びながら、あたふたと石段を駈けおりていった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
皆の跫音あしおとが聞えた時、火鉢にりかかって、時々こくりこくりと居睡いねむりをしていた母親は、あわてて目をこすって仕事を取りあげた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしてその場でセルの単衣ひとえの両肌を脱いで、汗ばんだ背中をきゅッきゅッとこすって、出しなに妻が揃えておいた背広服に着かえてから
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お一層この娘を嫌う※ただしこれは普通の勝心しょうしんのさせるわざばかりではなく、この娘のかげで、おりおり高い鼻をこすられる事も有るからで。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
門野かどの寐惚ねぼまなここすりながら、雨戸あまどけにた時、代助ははつとして、此仮睡うたゝねからめた。世界の半面はもう赤いあらはれてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから赤絵に使うきんは、どうしてやるのか忘れたが、とにかく焼き上った時は鈍い黄色をしている。それを籾殻もみがらで力一杯こするのである。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あわてて憐寸マッチをくわえて煙草をこすろうとしたり—— in a word、どの影法師も困り入ってただやたらにうろうろしている——。
グランテールはびっくりして身を起こし、両腕を伸ばし、眼をこすり、あたりをながめ、欠伸あくびをし、そしていっさいを了解した。
毛の乾くのを待つて居られないといふ風に、家中うちぢゆう馳けずり廻つて、小さな体を到るところにこすりつけて、ごろ/\部屋のなかを転がつて歩いた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
物好きな宿役人が米友の後ろへ廻って剃刀を取ったが、その剃刀があまり切れないせいか、山葵卸わさびおろしこするようでありました。
「ボブ・クラチットの許へそれを送ってやろうな」と、云いながら、スクルージは両手をこすり擦り腹の皮を撚らせて笑った。
居ても立ってもいられない悩みのほのおとなって彼を焼くのであるが、その焦熱を感ずれば感ずるほど、彼はそれをまわりでこすってき落すよう
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何を見てもしづむ光彩くわうさいである。それで妙に氣がくづれてちつとも氣がツ立たぬ處へしんとしたうちなかから、ギコ/\、バイヲリンをこする響が起る。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
白い体をした頸の長い山羊は、大きな赤い乳房をだらりと垂れて、一匹は柵の柱に頭をこすり/\していたづらをしてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
院長いんちょう片手かたて頬杖ほおづえきながら考込かんがえこんで、ただ機械的きかいてき質問しつもんけるのみである。代診だいしんのセルゲイ、セルゲイチが時々ときどきこすこすくちれる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「そうであろう」と頷いたが、葉之助の方へ眼をやると、「さて、お前に聞くことがある。てずに縁をこすったは、竹林派に故実あってかな?」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
暫時しばらく其處の煖爐ストーブにあたつて、濡れた足袋を赤くなつて燃えて居る煖爐に自暴やけこすり附けると、シュッシュッといやな音がして、變な臭氣が鼻をつ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
梅喜ばいきさん/\、こんなところちやアいけないよ、かぜえ引くよ……。梅「はい/\……(こす此方こつちを見る)×「おや……おまいいたぜ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さも樂しさうな林檎の木よ、昔はおまへのにほひをかいでよろこんだこともある、その時おまへの幹へ、牛が鼻先はなづらこすつてゐた。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
と膝の上の巫女みこの文をここまで読み下して、藤吉は鼻をこすった。畳のけばをむしった。深く勘考する時の習癖くせである。
ぶん酩酊よつぱらつたあし大股おほまたんで、はだいだ兩方りやうはうをぎつとにぎつて、手拭てぬぐひ背中せなかこするやうなかたちをしてせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しゅっこは、今日は、毒もみの丹礬たんぱんをもって来た。あのトラホームののふちをこする青い石だ。あれを五かけ、紙に包んで持って来て、ぼくをさそった。
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
果たして例の女給は眼をこすりながら、我々を迎えました。俊夫君は彼女を片隅へ呼んでまず大村氏の写真を、横顔と正面の顔と二枚とも差しだしました。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
梶は身の周囲を取り包んでいるばくとした得体の知れない不伝導体をごしごしこすり落しにかかったが、ふと前に一足触った芳江の皮膚の柔かな感触だけが
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
色若衆いろわかしゅうのような、どちらかといえば、職人向でない花車きゃしゃな体を、きまり悪そうに縁先に小さくして、わしづかみにした手拭で、やたらに顔の汗をこすっていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それに續いて、お駒も眼をこすり/\起きて、よた/\しながら便所へ行つた。二人は縁側でまぶしさうな眼をして、顏を見合つたまゝ默つて突つ立つてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
彼は眼をこすって、白い砂っ原、それからひろい野になっている川向うをながめだした。どうしてこの際、そんな湿っぽいことを考えたか自分でさえあきれた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
すると、全身にビリビリした神経的なものが現われてきて、それから、こぶの表面をいとしげにこすりはじめた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
をとこみんなあんなものおほいからとおふくわらすに、わるあてこすりなさる、みゝいたいではいか、れはえても不義理ふぎり土用干どようぼしこと人間にんげん
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こすりながら浴室ふろに至れば門前に待ち詫びたる馬の高くいなゝくにいよ/\慌て朝餉あさげの膳に向へば昨日きのふ鯉の濃汁こくしやう
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
文部視学官の丸山たまき氏は九人の子福者こふくしやで、お湯に入る時には自分が湯槽ゆぶねつかりながら、順ぐりに飛び込んで来る子供達を芋の子でも洗ふやうにあかこすつてやる。
新ばしのたもとに夜あかしの車夫が、寝の足らぬ眼をこすりつ驚くばかりの大欠おおあくびして身を起せば、乞食か立ん坊かと見ゆる風体ふうてい怪しの男が、酔えるように踉蹌よろめき来りて
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐあとでファラデーが管をこすったら、破れて口が開いたが、油のような液は見えなくなってしまった。
余程経って海が見え始めた時、僕は窓から乗り出して石炭の燃えかすを目に入れた。頻りにこすっていると
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あかじみた毛布をねのけるが早いか、金花は寝台の上に起き直つた。さうして両手に眼をこすつてから、重さうに下つた帷を掲げて、まだ渋い視線を部屋の中へ投げた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雪白せっぱくの麻布に掩われた糸杉の卓上に身を横たえると、黒奴がはいって来て橄欖の香油に浸した手で我々の全身をこすり始めた。そしてさらに次なる室へと導いてくれた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
色が美しく、こすれに強く、かおりが良く、洗いに堪え、古くなればなるほど色にあじわいが加わります。こんな優れた染料が他にないことは誰も経験するところでありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その時あたりに人気ひとけのないのを見すますと、いきなり氏はその絵に近づいて行って、自分の小指を唇で濡らしながら、それでもってその絵の一部をしきりにこすっていた。
(新字新仮名) / 堀辰雄(著)
義男もあごの先きを片手でこすりながら笑つて云つた。けれども義男の眼にはみのるの笑顏が底を含んでるやうな鋭い影を走らしてゐたと思つていやな氣がしたのであつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
幾度も幾度も眼をこすった。何故なにゆえともなく胸の躍るのを感じながら、左右に白々と横たわっている闇夜の街道を見まわした。自分で自分に云い聞かせるようにつぶやいた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寝台のたての鉄枠にさわれるように、彼は全身をねじまげた。そして狭窄衣の長い袖の下に隠れている手頸がそれに触ると、勢いよくごしごしと袖を鉄にこすりつけはじめた。
清吉は一々いちいち姓を上げて、小山おやま、清水、林などといって、やはり眼を両手でこすって泣いている。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
少年達は、長い牛の骨を持っていたが、時々それで、汗にこびりついたほこりこすり落していた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
頭から眼顔胴をこすり、それを川に流したという説もあるが(同上六巻二号)、これも必ず方言ネブタ、すなわち合歓の木を用いたもので、イボタというのは誤りだろうと思う。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
先ず麻の布巾ふきんのようなもので米をゴシゴシこするようにいて炮烙ほうろくか鉄鍋で狐色にります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
婆やはふとった身体をもみまくられた。手の甲をはげしくこする釘のようなものを感じた。「あ痛いまあ」といって片手で痛みを押えながらも、び上って西山さんを見ようとした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あら不思議、たしかその声、是もまださめ無明むみょうの夢かとこすって見れば、しょんぼりとせし像、耳をすませばかねて知るもみの木のかげあたりに子供の集りてまりつくか、風の持来もてくる数えうた
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを聞くと、私は跳ね起きて、眼をこすりながら、壁の銃眼のところへ走って行った。