)” の例文
囃子の音寂然ひっそとなりぬ。粛然として身を返して、三の松を過ぎると見えし、くるりといたる揚幕に吸わるるごとく舞込みたり
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひもも、紙鳶に相応ふさはしい太いいとだし、それがかれてあるわくも、子供では両手で抱へてゐなければならぬ程、大きな立派なものである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
あまり大き過ぎるためか、時は正確ではなかったそうです。月に一回、裏から梯子はしごをかけて、登って行ってくのだとか聞きました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
遅いにも程があるが、猛火のさかんな真夜半まよなか頃となって、恐怖と狼狽の底におとされた叡山の代表者は、信長の陣へ使いをたてて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素朴そぼくな生活への復帰を願うドヴォルシャークの心が、この郷愁となって、幾多いくた傑作をのこし、ともすれば虚偽と繁雑とにき込まれて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一つは平岡と自分を是非とも一所にき込むべきすさまじいものであった。代助はこの間三千代に逢ったなりで、片片かたかたの方は捨ててある。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちに、あらしは、だんだんきちがいじみてきた。しまいにはねげて、空中くうちゅうといっしょに、ばしたのでした。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
ままよと濡れながら行けばさきへ行く一人の大男身にぼろをまとい肩にはケットのまるめたるをかつぎしが手拭てぬぐいもて顔をつつみたり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ここの部屋は「係員以外の出入厳禁」であったから、係員である僕たちは部屋に戻ると縄梯子なわばしごきあげておかなければならなかった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
彼女はたけ長いけた髪に小さい青白い花をさして、それを光りある枕の代りとし、豊かなき毛はさらにあらわなる肩を包んでいます。
そういう奴が五、六疋も私の周囲を取りいて吠え立てるのですから随分気味が悪い。けれどもかねて教えられて居ることがあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ウィンチをく音が烈しく聞えて、鎖を下げた起重機は菜葉服なっぱふくの平吉を、蜘蛛くもの糸にぶら下った蜘蛛のように空中にげた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
たちまちキリッキリッと悲鳴のような音を立てて、船体がバラバラになり、船も人も、魔の渦巻の中にきこまれてしまうのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
奈美子なみこしろきれあたまをくる/\いて、さびしいかれ送別そうべつせきにつれされて、別室べつしつたされてゐたことなぞも、仲間なかま話柄わへいのこされた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その時、彼は蜜蜂の一群が、彼自身の周囲に小さな龍風たつまきの渦をいて飛び乱れたかのように感じたので、思わずも腰を折って馳け出した。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
大空の熱度激変せし為なるべし太西洋の面よりき起こりたる疾風、驀地まっしぐらに欧羅巴を襲い来たり、すさまじき勢いにて吹きあおれり。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
女性が、式場を出外ではずれると、彼女はそこで、四人の大学生に取りかれた。大学生達は皆死んだ青年の学友であるらしかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「時にお前、蛇口を見ていた時に、なんじゃないか、先についていた糸をくるくるっといて腹掛はらがけのどんぶりに入れちゃったじゃねえか。」
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たとい幾ら泥水稼業どろみずかぎょうの女にしても、ただむやみに男をだまして金をき上げさえすればいいというわけのものでもありますまい。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
刀を取ろうにも、刀は、喬之助がしりの下に敷いているのみか、まだ綱がいてあるのだから、たとい手にあっても、どうすることも出来ぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふゆ季節きせつほこりいて西風にしかぜ何處どこよりもおつぎのいへ雨戸あまど今日けふたぞとたゝく。それはむら西端せいたんるからである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
黒い繻子しゅすのみじかい三角マントを着てゐたものもあった。むやみにせいが高くて頑丈ぐゎんぢゃうさうな曲った脚に脚絆きゃはんをぐるぐるいてゐる人もあった。
花椰菜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
国民はほとんど文明の潮流にき込まれんとしているから、やはりその自然の流れに従ってさおさして行かなければならぬ様になって来ている。
黎明は突如としてき起これる妖雲よううんによって、しばらくは閉ざされようとも、吾々の前途の希望は依然として彼処そこに係っている。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
この受身の形は対象に統一を与える判断力を養っている準備期であるから、力が満ちれば端倪たんげいすべからざる黒雲をき起す。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
つやめかしくパッとくりあげられたままであり、下の抽斗ひきだしが半ば引き出されて、その前に黄楊櫛つげぐしが一本投げ出されているではございませんか。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「これを殿様のくびいて来い、ただ捲いて来さえすれば好い、お前がどんな音をさしたって、起きる者は無いから、大丈夫だ、捲いて来い」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼れ等は出来たたばこの葉を西印度で印度人に教へられたやうに、いてふかしはじめたが、それをお客にすゝめる場合の挨拶がいつのまにか
彼女は、喧嘩けんかにはきこまれず、両方の言い分をきいて、両方の譜を、その争いのなかからうつしとって、合うように接合してしまっていた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
水銀のげちらした鏡一つと、壊れた脚を麻縄あさなわでくるくるといた木の椅子いすが一つあるっきりの身窄みすぼらしい理髪屋であった。
月が悲しげに砕けてかれる。或る夜はまた、もの思はしげに青みがかつた白い小石が、薄月夜うすづきよの川底にずつと姿をひそめてゐるのがのぞかれる。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そのあいだ、ぶらぶらリオ・デ・ジャネイロで遊んでいるうちに、偶然『水棲人インコラ・パルストリス』に招きよせられるような、運命にきこまれることになった。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
せいぜい人を煙にくくらいが落ちである。ただせっかくしゃべったものだから、これだけのことはつけ加えておきたい。
仏蘭西文学と僕 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「折らないで下さい」と再三注意を与えて置くにもかかわらず、下車のときにはクルクルと巻物のようにいてしまう者あり
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
祖父ぢぢはわたくしの申したことが聞こえた顔もせず、筆を筆立へ納めて、大欠伸おほあくびをし、母に命じていた書物かきものを待たせて置いた小僧にやらせました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「だから財布さいふは、首へ掛けなくちゃならんと言っておいたじゃないか、グルグルきにして懐中へ突っ込んでおくから、こんなことになるんだ」
「露西亜との軍費をき上げて、之を菊三郎への軍費に流用する所、好個の外務大臣だ」まことや筆をつてはさぎを烏となし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ついうっかりしてるうちに僕もき込まれて、その跛足リンピイリンプの助手みたいな仕事をしなければならないことになった。
またのあいだにきこんで、しばり首にでもされるような様子でおずおずと歩き、しきりにヴァン・ウィンクルのかみさんを横目でうかがうのだった。
細いすねに黒いゲートルをき、ひょろひょろの胴と細長い面は、何か危かしい印象をあたえるのだが、それをささえようとする気魄きはくも備わっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
横佩家の池の面を埋めるほど、珠をいたり、解けたりした蓮の葉は、まばらになって、水の反射がしとみを越して、女部屋まで来るばかりになった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
こと気味きみわるかったのはわたくしのすぐそばる、一人ひとりわかおとこで、ふと荒縄あらなわで、裸身はだかみをグルグルとかれ、ちっとも身動みうごきができなくされてります。
「切って切って切りくる時節がいよいよ到来しましたかな」数馬は元気よくこう云いながらそっと刀の目釘めくぎをしめす。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
という話で、まるでけむかれた形。私も若井氏の思惑を心配したがこうなってはどうすることも出来ませんでした。
くるっと裾をくるしぐさをして(なぜなら褌ひとつで捲くる着物を着ていないから)片膝を立ててから云いだした
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
国王はケメトスがまだ十五六歳の若者であるのを見て、案外あんがいな気がされました。しかしその技をためしてみられると、初めて舌をいて驚かれました。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いや、山内殿の智弁には、今更ながら、つくづく恐れ入った。流石さすがの大岡越前守も、一言いちごんもなく、尻っ尾をいて引退ひきさがって行ったがいや、感服感服」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼は書かれた巻紙をまたきかえしていた。何べんでも質問を受けたかったのだ。書面の文字を見ていると、ほうふつとした快よいものが身を包んだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
主婦は舅の酒には苦労を仕抜しぬいて来た。夫の生きて居る間は、酒の上で二人はよく親子喧嘩をした。親類に呼ばれて行く時には、屹度きつと酔つてくだいた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しかもそのコップは上部の壁の一部が開いて屏風びょうぶのような形になっていて、上から見ると六角の螺旋形らせんけいき込んでいるという念の入ったものであった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)