うれひ)” の例文
しばらく楽まされし貫一も、これが為に興冷きようさめて、にはかに重きかしらを花の前に支へつつ、又かのうれひを徐々に喚起よびおこさんと為つ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そゝぐにおたかことばたがひもなくうれひまゆいつしかとけて昨日きのふにかはるまめ/\しさちゝのものがものへばさら手代てだい小僧こぞう衣類いるゐ世話せわひほどきにまで
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
涙に暮れる枝垂柳しだれやなぎよ、棄てられた女の亂髮みだれがみ、心と世とを隔てる幕、おまへのうれひのやうに輕い花を織り合せた縮緬ちりめん
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
この青く清らにて物問ひたげにうれひを含めるまみの、半ば露を宿せる長き睫毛まつげおほはれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
緊乎しつかりる、ときふ樣子やうすかはつて、をしばたゝいたのが、田舍ゐなかむすめには、十分じふぶんうれひいたから、惚拔ほれぬいてをとここと、おあき出來できうちにも考慮しあんして
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ああ、嘘、先生の業、何ぞ千万のうれひ無くして成らんや。我等手をひたひに加へて鏡花楼上の慶雲を見る。欣懐きんくわい破願を禁ず可からずといへども、眼底又涙無き能はざるものあり。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われは此語を聞いて、フラミニアの事を思ひ出し、喜の色は我面より消え失せたり。ポツジヨ。酒は好し。風波は我えんの爲めに歌舞す。いかなれば君うれひの色を見せ給ふぞ。われ。
彼女の目より涙をぬぐへ、すずしき風よ、彼女の胸よりうれひを払へ——アヽ我が梅子、なんぢの為めに祈りつゝある我が愛は、汝が心の鼓膜こまくに響かざる、——父なる神、永遠とこしなへに彼を顧み給へ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
戸外の雨はいよ/\わびしく、雲霧はうれひの影の如くさびしくこの天地にち渡つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
讀ため身にとくき戸外へ出ねば父母ちゝはゝも案じ給ふのうれひなし我は見ぬ世の人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天地紅の色つぽい結び文、押し開けると、プーンと掛け香の匂ひ、女文字の散らし書きで『ぜひ/\お出で下されたく、命にかけて御待申上參らせ候』と、まゐらせの字が、小首をかしげて、うれひふくんでゐる
南風モウパツサンがをみな子のふくらはぎ吹くよきうれひ吹く
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手を組みてひ知らぬあはうれひに立たしめぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
すすり泣くうれひのしづく。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
吟身ぎんしんいまなほうれひ帶びて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
若きうれひをたゝふめり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
とめと しのばるる 尼のみ寺の みほとけや 幾世へにけむ 玉の手の 光りふふみて かそけくも 微笑ゑませたまへる にふれつ 朝な夕なに おもはすは きその嘆きか うつし世の 常なきうれひか 頬にふるる 指のあはひに 春ならば くれなゐの薔薇ばら 秋日には
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
夕暮色ゆふぐれいろ薔薇ばらの花、うれひなかばんでゐる、あゝたそがれどききり夕暮色ゆふぐれいろ薔薇ばらの花、ぐつたりした手に接吻せつぷんしながら、おまへは戀死こひじにでもしさうだ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
宮の悔、宮の恨、宮のなげき、宮のかなしみ、宮のくるしみ、宮のうれひ、宮が心のやまひ、宮が身の不幸、ああつひにこれ宮が一生の惨禍! 彼の思は今たこのあはれむに堪へたる宮が薄命の影を追ひて移るなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
沙羅雙樹さらさうじゆの花の色、厭世の目には諸行無常の形とも見ゆらむが、うれひを知らぬ乙女おとめは何さまに眺むらむ、要するに造化の本意は人未だこれを得知らず、只おのれに愁の心ありて秋のあはれを知り
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
貴嬢の御恩を忘れたこと有りませんよ——彼頃あのころの貴嬢の御面おかほは全く天女でしたのねエ——けれど梅子さん、今ま貴嬢を見ると、何処どことも無くうれひの雲がかゝつて、時雨しぐれでも降りはせぬかの様に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
阿留加里アルカリをもて色變いろかへしうれひはなか、なぐさめか
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
青きうれひ水渋みしぶいざよふ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
若きうれひをたゝふめり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ながきうれひを止めぬ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
しぶりたるうれひに濁る。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
久く垂籠たれこめて友欲き宮は、すくひを得たるやうに覚えて、有るまじき事ながら、或はひそかに貫一の報をもたらせるにはあらずやなど、げても念じつつ、せめてはうれひに閉ぢたる胸をしばらくもゆるうせんとするなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あはれ、また母のうれひ恐怖おそれとならむそのみぎり。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うれひにさわぐ浪の外
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
この岸にうれひつな
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うれひを知るや
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おほらににほふ雅楽寮うたれうの古きいみじき日のうれひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うれひは谷の霧なれば
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
うれひは水に汗は瀬に
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
はかるだにいやくるし、うれひはおもし。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うれひは細き糸の音
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ほのかなるうれひあやにしみじみと
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あはれかかるあはつけきうれひもて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
すすりなくうれひ胡弓こきゆう
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
倦怠けんたいうれひが重なる。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)