布片きれ)” の例文
死体をかついでいたのはジャン・ヴァルジャンです。かぎを持っていたのは、現にかく申し上げてる私です。そして上衣の布片きれは……。
そして自分は、何々委員とかいう名を貰って、赤い布片きれでも腕にまきつければ、それでいっぱしの犬にでもなった気で得意でいるんだ。
新秩序の創造:評論の評論 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
紙包の中には、洋紙の帳面が一册に半分程になつた古鉛筆、淡紅色ときいろメリンスの布片きれに捲いたのは、鉛で拵へた玩具の懷中時計であつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
だから素跣足すはだしのまま寝台を降りて畳椅子の上に乗っかると、殆ど同時に八字ひげの小男が、白い布片きれをパッと私の周囲まわりに引っかけた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると、絹の焼け布片きれがでてきた。彼はそれを無造作むぞうさにひらいた。こんどは黄金メダルがでてきた。ぴかぴか光るので彼はびっくりした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さっきの話であ、おめえ、頭の髪も、髪さ結び付けた赤い布片きれも皆鼠に喰われでしまって、ほんで駄目なったのだ——って話だっけ……」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その傍で細君は、薄暗い吊洋燈と焚火の明りで、何かしら子供等のボロ布片きれのやうな物をひろげて、針の手を動かしてゐた。
奇病患者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
目を上げて見ると、黄色いやせた面長な顔と、どす赤くくぼんだ目をした、背の高い、頭に布片きれをかぶった女の姿が映じた。
ところで、最初にあの黙示図を憶い出してもらいたいのだ。知ってのとおりクリヴォフ夫人は、布片きれで両眼を覆われている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
上框あがりかまちの板の間に上ると、中仕切なかしきりの障子しょうじに、赤い布片きれひものように細く切り、その先へ重りの鈴をつけた納簾のれんのようなものが一面にさげてある。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信如しんにょとか何とか云う坊さんの子が、下駄げたの緒を切らして困っていると、美登利が、紅入友禅か何かの布片きれを出してやるのを
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
上衣には、裾から腰のあたりまで幅一フィートばかりの布片きれが、長く引き裂かれていたが、裂き取られてはいなかった。
古物展覧の方も古代な布片きれとか仏像のような、なんでも時代がついて、曰く因縁のありそうなものを並べ、鳴戸のお弓の涙などと子供だましでなく
また、相手のテーブルの上にこぼれた砂だの煙草の粉を、吹き払ったり掃き落したりもした。相手のインキ壺を拭く新らしい布片きれを持って来もした。
姉もまた赤い布片きれころもを縫って、地蔵の肩にまきつけたり、小さな頭布ずきんをつくったりして、石の頭に冠せたりした。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おび一重ひとへひだり腰骨こしぼねところでだらりとむすんであつた。兩方りやうはうはしあかきれふちをとつてある。あら棒縞ぼうじま染拔そめぬきでそれはうまかざりの鉢卷はちまきもちひる布片きれであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼女の手紙、彼女の手帳、すべて彼女のことを思わせるようなものを皆納ってしまった。彼の書籍の中からは草花の模様のある濃い色の布片きれが出て来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
死体の上衣うわぎから、幅一フィートばかりの布片きれが裾から腰の辺まで裂いて、腰のまわりにぐるぐると三重に巻きつけて、背部でちょっと結んでとめてあったことを
肩からはすに腰へ巻きつけただぶだぶの布片きれが素足をのこして三角の裾をつくつてゐた。カーテンのお化けだ。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
額に八千代の唇が触つたやうな気持がして楯彦氏は吃驚びつくりして目を覚ました。鏡を見ると、白い布片きれくるまつた毬栗いがぐりな自分の額が三ぶんの一ばかり剃り落されてゐる。
ジョーはその包みを開き好いように両膝を突いて、幾つも幾つもの結び目を解いてからに、大きな重そうな巻き物になった何だか黒っぽい布片きれを引き摺り出した。
額は布片きれで鉢巻をし、その布片がもう赤くなっている。血がにじみ出して、ひろがっているのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いねてもつかれずや、コホンコホンとしはぶく声の、骨身にこたへてセツナそうなるにぞ、そのつど少女は、慌てて父が枕もとなる洗ひ洒しの布片きれを取りて父に与へ、赤きものの交りたる啖を拭はせて
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
玄子げんしとははやしりて、えだきたり、それをはしらとして畑中はたなかて、日避ひよけ布片きれ天幕てんとごとり、まめくきたばにしてあるのをきたつて、き、其上そのうへ布呂敷ふろしきシオルなどいて
咳嗽せき噴嚔くしゃみをする時は布片きれ又は紙などにて鼻口を覆うこと——とある。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
胃吉驚き「オヤオヤ何か来たぜ、妙なものが。ウムお屠蘇とそだ。モミの布片きれへ包んで味淋みりんへ浸してあるからモミの染色そめいろ一所いっしょに流れて来た。腸蔵さんすぐにそっちへ廻してげるよ」腸蔵「イヤ真平まっぴらだ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
即ち鍋上にあな穿うがてる布片きれひ、内にれて之を沼中にとうじたるなり、「どろくき」としやうする魚十余尾をたり、形どぜうに非ず「くき」にも非ず、一種の奇魚きぎよなり、衆争うて之をあぶしよくすれど
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
かおに白い布片きれが掛けてある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
爺様に、頭の髪さ赤い布片きれでも縛って、少しの間、やすぐ売って歩いで見ろ——って言われたごとあったが、俺なあ婆様、そうして見だのしゃ。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
……おかしいな……妙だな……と男ながら惚れ惚れと鏡越しに見恍みとれているうちに、若い親方は、吾輩の首の周囲まわりに白い布片きれをパッと拡げた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「恐竜をおそれていては仕事ができないよ。あんなものは、針金と布片きれと紙とペンキでこしらえあげた造り物と思って向えばいいんだ。しっかりしろよ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中へ野見の老人が這入って仕草をするという騒ぎ……一方、古物展覧の方も古代な布片きれとか仏像のような何んでも時代が附いていわく因縁のありそうなものを並べ
切らして困つてゐると、美登利が、紅入友禅か何かの布片きれを出してやるのを、信如が妙な意地と遠慮とで使はない。あの光景なんか今でもハツキリと思ひ出せる。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「お内儀かみさんへんなことくやうでがすがおびにする布片きれはどのくれえつたらえゝもんでがせうね」といた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
裾から腰の辺まで裂かれた布片きれが、マリーの腰のまわりを三重に巻くということも彼の論理的の矛盾ということが出来るのであって、実際に死体を発見した人たちが
或る夏の夕方には、布片きれ一枚を畑物を掠めたつぐないにうねの上に置いてもどったこともあれば、若干の金をも眼に立つところに置いてただで掠める野のものでない証左としていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「もし/\。今見てゐると、お前さんはこの国旗の布片きれで濡手を拭きなすつたやうだね。」
赤い布片きれか何かで無雑作に髪を束ねた頭を、垢染みた浅黄の手拭に包んで、雪でも降る日には、不格好な雪沓つまごを穿いて、半分に截つた赤毛布を頭からスツポリ被つて来る者の多い中に
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
近在から通ふ児童こどもなぞは、フランネル布片きれで頭を包んだり、肩掛を冠つたりして、声を揚げ乍ら雪の中を飛んで行く。町の児童こどもは又、思ひ/\に誘ひ合せて、後になり前になり群を成して行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私は着物のへりを一部分ひき裂いてその布片きれをずっと伸ばして、壁と直角に置いた。牢獄のまわりを手さぐりして回っているうちに、完全に一周すればこの布片に出会うことはまちがいない。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
いまかつて、彼女はこういう調子でにんじんに話しかけたことはないのである。面喰めんくらって、彼は顔をあげる。見ると、彼女の指は、布片きれと糸で、さっぱりと、大きくがんじょうに包まれている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
布片きれぢやないの」
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そのまん中に頭を白い布片きれで巻いた、浴衣一貫の福太郎がボンヤリと坐っていたが、スッカリ気抜けしたような恰好で
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鳥取藩と芸州藩の諸隊が、この青雲寺を取り囲んだのは。錦の布片きれを付けた同士が、激しく戦った。ここまで付いて来た農兵隊は、蜘蛛の子を散らすように逃亡した。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大きな硝子箱の中に古代ぎれの上に据えた七宝と、白絹の布片きれの上に置かれた鶏とはちょうど格好な対照であった。自分ながら幹部の人々の趣向のうまいのに感心した位であった。
赤い布片きれか何かで無雜作に髮をたばねた頭を、垢染あかじみた浅黄あさぎの手拭に包んで、雪でも降る日には、不恰好な雪沓つまごを穿いて、半分につた赤毛布を頭からスッポリかぶつて來る者の多い中に
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女は彼女の衣服から引き裂かれた布片きれで絞殺され、両腕のまわりに紐の跡がはっきり附いていた。両手には薄色のキッドの手袋をはめ、ボンネットは、リボンによってくびにひっかかっていた。
ぽつさりとして玄關げんくわんつてるのは悉皆みんな怪我人けがにんばかりである。くびからしろ布片きれつてれもしろ繃帶ほうたいしたたせたものもあつた。其處そこあをかほをしてぐつたりとよこたはつてるものもあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「唯の布片きれだと思つとるだよ。」
いつぞや肺病で死んだニーナさんが寝かされていたその寝台ベッドの上に、湯タンポと襤褸ぼろ布片きれで包まれながら、裸体ぱだかで放り出されているじゃないの。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)