“容(い)” の例文
吾々に支払う蚊の涙ほどの鑑定料が惜しいのかも知れないが、余計なところには一切喙(くちばし)を容(い)れさせないのだから詰まらない事夥(おびただ)しい。
無系統虎列剌 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
特に現在のいわゆる精密科学の学徒から見れば到底彼らの考える科学の領域に容(い)れることを承認し難いものと考えられるに相違ない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五十男が今更後添(のちぞい)を貰って、『高砂やア』も気が引けるし、そうかと言って、高い身の代金を積んで商売女を容(い)れるのも知恵が無い。
文化(ぶんくわ)が發達(はつたつ)して來(く)れば、自然(しぜん)何處(どこ)か漠然(ばくぜん)として稚氣(ちき)を帶(お)びて居(ゐ)るやうな面白(おもしろ)い化物思想(ばけものしさう)などを容(い)れる餘地(よち)が無(な)くなつて來(く)るのである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
一の量のいかにして他の量を容(い)れたりし——體、體の中に入らばこの事なきをえざるなり——やは人知り難し、されば我もし 三七—
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
本丸に入ると、さすがに国境七城の主城だけのものはあって、城中はかなり広く、守兵二千余人を容(い)れながらなお寂(せき)たるものがある。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろんわずかにひざを容(い)るに足るだけのものではあるが、それでも庭には多少の植木もあり、窓には戸締まりの用意までしてある。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
湯呑みは、長い間使わずに放(ほう)ってある。すると、女中のオノリイヌが、その中へ、ランプの金具を磨(みが)く赤い磨(みが)き砂を容(い)れてしまった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
けれども、此方(こちら)の請求を容(い)れて下さらなければ已(や)むを得んので、実は事は穏便の方が双方の利益なのですから、更に御一考を願ひます
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その放縦不羈(ほうしょうふき)世俗の外に卓立せしところを見るに、蕪村また性行において尊尚すべきものあり。しかして世はこれを容(い)れざるなり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
零落不平素志を達せずして終(つひ)に道徳上世に容(い)れられざる人となることもあるべし。憤懣(ふんまん)短慮終に自己の名誉を墜(おと)すこともあるべし。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
僕などからかれこれ喙(くちばし)を容(い)れられることは、実際迷惑かも知れんが、そこは一つ、年寄の顔を立てると思つて勘弁してもらひたい。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あるいは容(い)れる濁酒(マッカリ)から出た呼び方なのか、それとも主語「まり」から来たものなのか、いずれにしても興味を惹かれる。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もはや社会に容(い)れられぬ人間になった気持で、就職口を探しに行こうとはせず、頭から蒲団(ふとん)をかぶって毎日ごろんごろんしていた。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかし、一(いち)自動車(じどうしや)の手負(ておひ)如(ごと)きは、ものの數(かず)でもない、戰(たゝか)へば勝(か)つ驕將(けうしやう)は、此(こ)の張中(ちやうちう)の説(せつ)を容(い)れなかつた。勇(ゆう)なり、また賢(けん)なるかな。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
が、すぐにわたしは放免(ほうめん)された。そのまま何のこともなく教場へ入ることを許された。——素直にその「抗議」が容(い)れられたのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
芸術家でも時に容(い)れられず世から顧(かえり)みられないで自然本位を押し通す人はずいぶん惨澹(さんたん)たる境遇に沈淪(ちんりん)しているものが多いのです。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
河野は、私の無言の歎願(たんがん)を容(い)れて、私の嘘と口を合せてくれました。それを聞いて私はやっと胸のつかえがおりた様に思ったことです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まず源は井頭池から出て杉並区を通り、中野区へ入るところで善福寺川を受け容(い)れ、中野区淀橋区に入ると落合町で妙正寺(みょうしょうじ)川と合する。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大きいものは一石(こく)も容(い)るれば小さきものは一勺(しゃく)も容れ得ぬ。しかしいかに小(しょう)なるも玩具(がんぐ)にあらざる限りは、皆ひとかどの徳利と称する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
上に引いたフィリップ氏の言葉通り、今の世界に絶迹(ぜっせき)たる過去世期の諸爬虫の遺骸化石が竜てふ(という)想念を大いに助長したは疑いを容(い)れず。
『もう爲(し)ないから、萬望(どうぞ)話(はな)して頂戴(ちやうだい)な』と愛(あい)ちやんは極(ご)く謙遜(けんそん)して、『二度(ど)と喙(くち)を容(い)れないわ。屹度(きつと)そんな井戸(ゐど)が一(ひと)つ位(くらゐ)あつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
この一事は天地も容(い)れない大罪を犯したように評するものが多いけれども、もしこの決断がなかったら、日本国はどうなったろう。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鴎外はドチラかというとクロース・ハアテッドで、或る限界まで行くとそれから先きは厳として人を容(い)れないという風があった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これと相隣りする雨蛙の不孝者が、せめては亡き親の最終の望みを容(い)れようとして、かえってその真意に反して水の岸に埋めた。
私(わたし)は自分(じぶん)の不安(ふあん)と苦痛(くつう)を訴(うつた)へたが、其(それ)も効(かひ)はなく、此(この)まゝ秘密(ひみつ)にしてくれと云(い)ふ妻(つま)の哀願(あいぐわん)を容(い)れて、此事(このこと)は一時(じ)其(その)まゝに葬(はふむ)ることにした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
わたしはあなたの懇願を容(い)れてやれと言いつかったのです。三、七、一の順に続けて賭けたなら、あなたは勝負に勝つでしょう。
彼は書斎へ老女を招致せり、新古の書巻僅(わづか)に膝を容(い)るゝばかりに堆積散乱して、只(た)だ壁間モーゼ火中に神と語るの一画を掛くるあるのみ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
要するに、私たちは、この要求が、容(い)れられなければ、私たちとしては、どんな仕事にもつかないという申し合わせがしてありますから。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
世に容(い)れられない思想に獻身する爲に、亨一は憲法が與へたすべての自由を奪はれた。十年奮鬪して何物をも贏(か)ち得なかつた。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
衆人醉へる中に獨り醒むる者は容(い)れられず、斯かる氣質なれば時頼は自(おのづ)から儕輩(ひと/″\)に疎(うとん)ぜられ、瀧口時頼とは武骨者の異名(いみやう)よなど嘲り合ひて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
蓋付きのスウプ容(い)れと三人前の食器を、大いなる銀盆にのせて運び出して来た公爵、ルイ十五世ふうの卓(テーブル)の上にそれを適当に配置してから
願(ねがわ)くは何か峻烈(しゅんれつ)なる刺激を与え、鞭撻(べんたつ)激励して彼等を努力せしめたならば、日本の生産力もまた必ず多大の増加を見る事は疑いを容(い)れまい。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
木立の深い処には、人を容(い)るるに足るほどの天然の土穴(つちあな)が所々(ところどころ)に明いているので、二人はここへ潜(もぐ)り込んで、雨を避けながら落葉を焚いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土と水とが一切の汚物を受け容(い)れなかったら、世界の汚物は何処へ往くであろうか。土が潔癖になったら、不潔は如何(どう)なることであろうか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
二階は臺所と同じ大きさの寢室で、樅材(もみざい)の寢臺と、小さな、とは云へ乏(とぼ)しい私の着物を容(い)れるには廣すぎる箪笥がついてゐた。
が、その群衆はかなりの密度を持っていて、容易には新来者を容(い)れないのである。啓吉は、懸命(けんめい)に努力して、群衆の中心へ這入(はい)る事が出来た。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そなたが何(なん)と言(い)おうと、神界(しんかい)ではすでに人民(じんみん)の願(ねが)いを容(い)れ、小桜神社(こざくらじんじゃ)を建(た)てさせることに決(き)めた。そなたの器量(ちから)は神界(しんかい)で何(なに)もかも御存(ごぞん)じじゃ。
それにまたあなたの言うところを容(い)れてこれをネパール政府に掛合うとしたところが、我々が直接に掛合う訳にはいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼女に少しも変ったようすがなく、まえと同じように受け容(い)れてくれるのをみて、彼は強い自責と深いよろこびとを、二重に感ずるのであった。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あなたが去年の仮装観桜会のころのことを思い出して、職工たちの今度の要求を全部容(い)れてやっていただきたいのです」
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それで十七世紀の中ごろにおいてはその説は社会にまったく容(い)れられなかった。その時分にはヨーロッパでは主義は国家主義と定(き)まっておった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかし目に見えない将来の恐怖ばかりに満(みた)された女親の狭い胸にはかかる通人(つうじん)の放任主義は到底容(い)れられべきものでない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「一刻で頑固で人と容(い)れないで、思う通りをやってのける、俺の性質や暮らし方が、娘の出世に支障(さしさ)わったら、済まないことになるのだがなあ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東西の宗教その趣を異にすることかくのごとし。余輩ここに疑いを容(い)るること日すでに久しといえども、いまだその原因の確かなるものを得ず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
尤(もっと)もそれには、貞之助が矢張本家に気がねしながらも、妻のそう云う性質に理解ある態度を示して、快く義妹達を受け容(い)れていたせいもあろう。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
既(すで)に水も艸木(くさき)も、虫も土も空も太陽も、皆我々蛙の為にある。森羅万象(しんらばんしやう)が悉(ことごと)く我々の為にあると云ふ事実は、最早(もはや)何等(なんら)の疑(うたがひ)をも容(い)れる余地がない。
蛙 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども、このごろ、その梅干にかびが生えはじめた。かっぽれは、これは容(い)れ物の悪いせいではあるまいかと考えた。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
... 容(い)るるや否(いな)やという点を大原君に調べてもらわなければならん」大原「よろしい必ず調べよう。その外にまだあるかね」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
渋江氏の勤王はその源委(げんい)を詳(つまびらか)にしない。しかし抽斎の父允成に至って、師柴野栗山(しばのりつざん)に啓発せられたことは疑を容(い)れない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)