奈何いか)” の例文
他の奈何いかなる芸術作品に較べて見ても、最も形式が狭小であり作品の数もすくないのに、それの市価の決定されてゐないのはどうか。
俳句は老人文学ではない (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
アンドレイ、エヒミチは奈何いかにも情無なさけないとふやうなこゑをして。『奈何どうしてきみ那樣そんな氣味きみだとふやうな笑樣わらひやうをされるのです。 ...
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これは単に興行したと云うだけを汚涜だと見たのであるが、進んで奈何いかに興行したかと云う側から汚涜を見出した人があるらしい。
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
許をも受けで校外に出で、士官と倶に酒店に入りしは、輕からぬ罪なれば、若し事あらはれなば奈何いかにすべきと、安き心もあらざりき。
此男の白つぽい顔や黄いろい髪と、死だのなんのと云ふ、深刻な、偉大な思想とは、奈何いかにも不吊合に感ぜられたからである。
私達は必要な場合には奈何いかに疑ふべきかを知らねばならない。又、必要な場合には奈何に確むべきか、奈何に從ふべきかを知らねば成らない。
パスカルの言葉 (旧字旧仮名) / ブレーズ・パスカル(著)
故に余は以上の条件を備へざる人生相渉論ならば、奈何いかなる大家先生の所説なりとも、是に対して答弁するの権利なきなり。
奈何いかに頭をほてらせて靈魂の存在を説く人でも、其の状態を眼前まのあたり見せ付けられては、靈長教の分銅ふんどうが甚だ輕くなることを感得しなければなるまい。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
適確な記述の文章を背地に置いて奈何いか肯綮こうけいに当り、手に入ったものであるかは、原文が簡単であるだけになおよく分る。
たちまち一人の導者が僕の手をとらへて雲霧の濛々もうもうたるなかを行く、それが奈何いかにも慌てふためいた様子であり、僕に前行ぜんかうした数人の紅毛人を追ひ越して行く。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
この刹那に、スタニスラウスは一同の目が自分の一身に集注してゐるのを感じて、それと同時に自分が奈何いかにも老衰して、たよりなくなつてゐるやうに思つた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
問題は『近代の結婚制度は善良にして果してよく社会の需要に応ずるものなりや』と云ふのではなく『奈何いかにせば吾人は種族改善の為め現在のそれより更らに有効なる道徳律を ...
恋愛と道徳 (新字旧仮名) / エレン・ケイ(著)
此村あたりの娘には、これ程うまい話はない。二人は、白粉やら油やら元結やら、月々の入費を勘定して見たが、それは奈何いかに諸式の高い所にしても、月一円とは要らなかつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あだか昔物語むかしがたり亞剌比亞アラビヤ沙漠さばく大魔神だいましんみゐられたる綿羊めんようのごとく、のがれんとしてのがるゝあたはず、たゝかはんか、速射砲そくしやほうもガツトリングほう到底とうていちからおよばぬ海底かいていこの大怪物だいくわいぶつ奈何いかせん。
孝孺いよ/\奮って曰く、すなわち十族なるも我を奈何いかにせんやと、声はなははげし。帝もと雄傑剛猛なり、ここに於ておおいいかって、刀を以て孝孺の口をえぐらしめて、また之を獄にす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すべてに徹底を願い、真実を慕うおのが心のかの過ちによりて奈何いかばかりの苦痛を重ねしか。そは今更云々うんぬん致すまじ。最後の苦汁の一滴まですべき当然の責ある身にて候えば。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
因つて校修を加へて以て改刻せんと欲すること一日に非ざるなり。独り奈何いかんせん、老衰日にせまり、志ありて未だ果さず、常に以てうらみとなす。すなわち門人茂質に命じて改訂に当らしむ。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
然れども奈何いかにせん、歌麿と北斎とは今日の油画よりも遥によく余の感覚に向つて日本の婦女と日本風景の含有する秘密を語るが故に、余はその以上の新しき天才の制作に接するまで
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
奈何いかなる事情わけ訊問たずねしに、昨夜廿一二にじゅういちにのこうこう云う当家こなたのお弟子が見えて、翌日あす仏事があるから十五軒前折詰おりづめにして、もって来てくれとあつらえられましたと話され、家内中顔を見合せて驚き
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
わが思には形なきを奈何いかにすべき。恋か、あらず、のぞみか、あらず……。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
ここおいテ項王すなわチ悲歌慷慨こうがいシ自ラ詩ヲつくリテいわク「力山ヲ抜キ気世ヲおおフ、時利アラズ騅カズ、騅逝カズ奈何いかんスベキ、虞ヤ虞ヤなんじ奈何いかニセン」ト。歌フコト数けつ、美人之ニ和ス。項王なみだ数行下ル。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
玲瓏れいろう々々老いたるを奈何いかにせん」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人皆奈何いかにせましと思ひ惑ひ
唯喰ツてゐると謂ツては、何んの意味も無ければ不思議も無いが、其が奈何いかにも樂しさうで、喰ツてゐる間、氣も心も蕩々とけどけしてゐるかと思はれた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
棭斎の少時奈何いかに保古に遇せられたかは、わたくしのつまびらかにせざる所であるが、想ふに保古は棭斎の学を好むのに掣肘を加へはしなかつたであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ソロモンとヨブとは、奈何いかなる人よりも人間の悲みを知つて居たし、又、語りもした。前者は人として最も幸福であつた。後者は最も不幸であつた。
パスカルの言葉 (旧字旧仮名) / ブレーズ・パスカル(著)
あるいは「明治四十五年十月五日武島天洋。」などと無意味にかいてあるのもあった。ただ、その年号というものが奈何いかに寂しくあたまにひびくことであろう。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さるを怪むべきは此女優の擧止たちゐのさま都雅みやびやかにして、いたく他の二人と異なる事なり。われは心の中に、若しわかき美しき娘に此行儀あらば奈何いかならんとおもひぬ。
そこであわてて大阪医科大学の療治を乞うたけれども奈何いかにも思わしくない、そのうち一がんはつぶれてしまった。それのみではなく、片方の眼もそろそろ見えなくなって来た。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
余は決して邦人の制作する現代の油画をきらふものにあらず、然れども奈何いかにせん、歌麿と北斎とは今日こんにちの油画よりも遥によく余の感覚に向つて日本の婦女と日本風景の含有する秘密を語るが故に
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとへ奈何いかなる場合があらうと、大切な戒ばかりは破るまいと考へた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
また今更いまさらかんがへれば旅行りよかうりて、無慘々々むざ/\あたら千ゑんつかてたのは奈何いかにも殘念ざんねん酒店さかやには麥酒ビールはらひが三十二ゑんとゞこほる、家賃やちんとても其通そのとほり、ダリユシカはひそか古服ふるふくやら、書物しよもつなどをつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
必然きっと餓鬼がきたのだ何か食うとぐ治ると云って、もっている饅頭まんじゅうれた、僧はよろこんで一ツくったが、奈何いかにも不思議、気分が平常に復してサッサッと歩いて無事に登山が出来たと話した事があった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
東京に行けば、言ふまでもなく女中奉公をする考へなので、それが奈何いかに辛くとも野良稼ぎに比べたら、朝飯前の事ぢやないかとお八重が言つた。日本一の東京を見て、食はして貰つた上に月四円。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして頭を振つたが、その様子が奈何いかにも心細げに見えた。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
玲瓏れいろう々々老いたるを奈何いかにせん」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其の動機は事業の失敗しつぱいで、奈何いか辛辣しんらつ手腕しゆわんも、一度逆運ぎやくうんに向ツては、それこそなたの力を苧売おがらで防ぐ有様ありさまであつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
迷庵の考証学が奈何いかなるものかということは、『読書指南』について見るべきである。しかしその要旨は自序一篇に尽されている。迷庵はこういった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
されども技藝の聲價、技藝の光榮は、縱令よしや其極處にいたらんも、昔のアヌンチヤタが境遇の上に出づべくもあらず。而るにそのアヌンチヤタが末路は奈何いかなりしぞ。
そこで慌てて大阪医科大学の療治をうたけれども奈何いかにも思はしくない、そのうち一眼はつぶれてしまつた。それのみではなく、片方の眼もそろそろ見えなくなつて来た。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
亀山を奈何いかにせばや。
谷崎潤一郎氏の作品 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
諸子はたと奈何いかなる事に遭遇するとも、従容としてこれに処し、みだりに言動すること無く、天下をして柏軒門下の面目を知らしむる様に心掛けるが好い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「嫌な天氣だな。」と俊男は、奈何いかにもんじきツたていで、ツと嘆息ためいきする。「そりや此樣こんな不快を與へるのは自然の威力で、また權利でもあるかも知れん。 ...
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたくしの敬愛する所の抽斎は、角兵衛獅子かくべえじしることを好んで、奈何いかなる用事をもさしおいて玄関へ見に出たそうである。これが風流である。詩的である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とブツ/\いふ。其の態度が奈何いかにもひやゝかで、ふこともキチンと條理でうりが立ツてゐる。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたくしの求むる所の証拠は、たとひ今藤陰の裔孫の手に無くとも、他日何処からか現れて来はすまいかと云ふのである。証拠とは奈何いかなるものであるか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
姿にしても其通そのとほりだ、奈何いかにもキチンとしまツて、福袢じゆはんえりでもおびでも、または着物きものすそでもひツたり體にくツついてゐるけれども、ちつとだツて氣品きひんがない。別のことばでいふと、奥床おくゆかしい點が無いのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
併し此の断定には何の根拠も無い。磯貝は魔睡の間に奈何いかなる事をもサジエストすることを得たのである。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
周三は奈何いかなる場合にも「自己」を忘れなかツた。そして何處までも自己の權利を主張しゆちやうして、家または家族かぞくに就いて少しも考へなかツた。無論家の興廢こうはいなどゝいふことはてん眼中がんちゆうに置いてゐなかた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
奈何いかに敵を憎むことの出来ない博士でも、それを平気で自分の家に当てめて考へることは出来ない。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)