のぼ)” の例文
しかし、そののいただきまでのぼれるものは、じゅうちゃんくらいのもので、ほかのには、がまわるほど、あまりにたかかったのです。
高い木とからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
一番ののぼり列車の着くまでの渡し舟は、向こう地からくる野菜を背負った女の人が多い。自転車、リヤカーなどもうまく舟に乗せる。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
りつする山と山の間の、土質の悪い畑地の中を緩やかにうねつて東に向つてゐた。日はもう高くのぼつて、路傍の草の葉も乾いた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
暖い日で額が汗ばむ程なので、基督は外套を脱いで、そこらの楊の木に引掛ひつかけたまゝ、岡をのぼつて多くの群衆にお説教をしに出掛けた。
学者の例証するところによると、一ぴき大口魚たらが毎年生む子の数は百万疋とか聞く。牡蠣かきになるとそれが二百万の倍数にのぼるという。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思起すと、私はもう一足も其の方へちかづくのに堪へぬやうな氣がして、にぐるが如く東照宮の石段をのぼつて、杉の木立の中に迷ひ入つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
宗時は、その人々が、彼方にかくれるまで、黙然と見送っていたが、やがて、われに返ったように、岩山のみねへのぼって行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
打続きて宮が音信たよりの必ず一週に一通来ずと謂ふこと無くて、ひらかれざるに送り、送らるるにひらかかざりしも、はやかぞふれば十通にのぼれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それだけの前古ぜんこ未曾有みぞうの大成功を収め得た八人は、のぼりにくらべてはなお一倍おそろしい氷雪の危険の路を用心深く辿たどりましたのです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それに今陸にのぼつて見ると、これから真直にどこまででも行かれる。元の所に帰るやうなおそれは無い。これまでとは大ぶ工合が違ふ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
天子てんしさまはそのうたをおよみになって、かわいそうにおおもいになり、頼政よりまさ四位しいくらいにして、御殿ごてんのぼることをおゆるしになりました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
勿論、「家」と云う事も、彼の念頭にはのぼっていた。が、変があるにしてもそれは単に、「家」を亡すが故に、大事なのではない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もっとのぼりは大抵たいていどのくらいと、そりゃかねて聞いてはいるんですが、日一杯だのもうじきだの、そんなにたやすかれる処とは思わない。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身輕手輕とそればかりをせんにしたる旅出立たびでたちなれば二方荒神の中にすくまりてまだ雨を持つ雲の中にのぼる太華山人其のさぶさを察し袷羽織あはせばおり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
しかも同一展望でも、仁田峠より更に約一千尺をのぼったこの絶頂からそれを眺める時、爽快そうかいの感情が加わること、いうまでもない。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
ひさしのもとにゆかありて浅き箱やうのものに白くかくなる物をおきたるは、遠目とほめにこれ石花菜ところてんを売ならん、口にはのぼらずとおもひながらも
かの女が、心堅かた膽大きもふとければ、マリアを下に殘しつゝ、クリストとともに十字架にのぼりし事さへこれが益とならざりき 七〇—七二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何度なんど何度なんど雄鷄おんどりえだのぼりまして、そこからばうとしましたが、そのたびはねをばた/″\させてりてしまひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あはれ聞きも及ばぬ奇怪の讓位かなとおもはぬ人ぞなかりける。一秋毎ひとあきごとに細りゆく民のかまどに立つ烟、それさへ恨みと共に高くはのぼらず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼は死にいたるまで、その父母をわするるあたわざりしなり。否、死するに際して、第一彼れの念頭にのぼりし者は、その父母にてありしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
医師の村尾氏は、春の夜の漫談会の席上で、不老長寿法が話題にのぼったとき、極めて真面目な顔をして、こう語りはじめました。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
額は血がのぼって熱し、眼も赤く充血したらしい? ここに倒れても詩の大和路だママよとじっと私は、目をつむってしばらく土に突っ立っていた。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
そのうちに日が山の上へ出て、だんだんに空へのぼっていきました。ギンはそれからおひるじぶんまで、じっと岸にまっていました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
泡雪あわゆきのように大地を蹴散らかして勢いよく叫びの聲をお擧げになつて待ち問われるのには、「どういうわけでのぼつてられたか」
……たまり兼ねた黒吉は、誰にも知れぬように、こっそりと床を抜け出すと、音を忍ばせながら高い小屋の天井へのぼって行った。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
馬鹿云うな、口があれば京にのぼる、長崎から江戸に一人行くのに何のことがあるか。「けれども私は中津にかえっておふくろさんにいいようがない。 ...
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
天筠居といっては誰も余り知るまいが、天金といったら東京の名物の一つとしておのぼりさんの赤ゲットにも知られてる旗亭きていの主人である。
梅子うめこさん!梅子うめこさん!ぐに手套てぶくろつて頂戴てうだい!』とこゑがして、やがてパタ/\と梯子段はしごだんのぼちひさな跫音あしおとがしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
文豪の作「マリオン・ド・ロルム」を巴里パリイで舞台にのぼすについて作者の注文を述べ、又口を極めてムネ・シユリイの技倆を賞讃し
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼らは、ウォーニンの柱やレールにのぼったり、つかまったりして、それをながめようとした。けれども、波にさえぎられて見えなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
絹手巾はその輸出かつて隆盛を極め、その年額百万ダースその原価ほとんど三百余万円にのぼり我が国産中実に重要の地位を占めたる者なりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
京都にいると始終斯ういうお相手を勤めるから案内の順序をすっかり覚えてしまう。さあ、おのぼりさん、ソロ/\出掛けましょう
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
荷を売った銭はもとより路用の不足を補う額にはのぼらなかった。幸に弘前藩の会計方に落ち合って、五百らは少しの金を借ることが出来た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
汽車は西へ西へと走って、日の夕暮ゆうぐれ十勝とかち国境こっきょう白茅はくぼうの山を石狩いしかりの方へとのぼった。此処の眺望ながめは全国の線路にほとんど無比である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
昨年度はこの拓殖予算が二億七千万円とかあったそうであるが、今年度はそれが一躍して十何億円とかいう数字にのぼるらしい。
琵琶湖の水 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
かの藍玉屋の金蔵の如きは、執心しゅうしんの第一で、何かの時にうれいを帯びたお豊の姿を一目見て、それ以来、無性むしょうのぼりつめてしまったものです。
僕ののぼつて来た道はもうずつと細くなつて下の方に見えてゐる。そのとき、遙か下の方から人ふたりが上つて来た。男と女だ。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
めいめいの宿許やどもとへ引き揚げて、やれよかったと初めて落ちつくと共に、どの人の口にのぼったのもかの奇怪な人間の噂であった。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平三は祠への階段をのぼりながら無暗むやみに怒鳴った。そして彼は階段を上りきると、そこの赤い鳥居へ力任せに身体を打ち付けた。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
むかしのまゝ練壁ねりかべ處々ところ/″\くづちて、かはら完全くわんぜんなのは見當みあたらくらゐそれに葛蔓かづらのぼつてますから、一見いつけん廢寺ふるでらかべるやうです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
恵那峡の幽邃ゆうすいはともすると日本ラインの豪宕ごうとうしのぐ。ここまでのぼって来なければ木曾川の綜合美は解せられない。すばらしい、すばらしい。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
余剰は貯蔵させるが、遠国はつとめてその大部分を交易にてしめ、軽物にして京へのぼせるようにする。是があの時代の地方財政法であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
っと焔のように染めている、陽の反映を頭上に浴びながら、法水は犯人クリヴォフを俎上そじょうのぼせて、寸断的な解釈を試みた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
婦人は此言をなしをはりて、わづかにおのれの擧動ののりえたるをさとれりとおぼしく、かほに火の如きくれなゐのぼして席をすべり出でぬ。
しばらくすると、川しものほうから、一そうの白いランチがのぼってきて、バラックのうしろの岸に近づくと、そこへ、よこづけになりました。
探偵少年 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御母君の女御にょごは新帝の御代を待たずにくなっていたから、きさきの位におのぼされになっても、それはもう物の背面のことになって寂しく見えた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
その気持ちを代表したねむそうな薄笑いがそうした場合の女性の鼻の表現にのぼってはいまいかと想像し得る位の事であります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
食膳にのぼせた海老の赤い殻を、藪の中にほうんだ。湿っぽい、薄暗いようなあたりの空気に対して、赤い海老の殻があざやかに眼に映るのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
さけが川へのぼってくるころになりますと、川はさけでいっぱいになり、さけはたがいに身動みうごきもできないくらいになることがあるのだそうです。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
舞台にのぼる三時間は彼女の生活の幕間なのである。彼女は生活の全力を集めて舞台に尽くしているのではない。意味のあるのは舞台外の生活だ。
エレオノラ・デュウゼ (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)