黒闇くらやみ)” の例文
どんなことを話しているであろう? と冷たい黒闇くらやみの夜気の中にしばらくじっとたたずんでいても、うちの中からは、ことりの音もせぬ。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
山路で、黒闇くらやみで、人っ子一人通らなくって、御負おまけに蝙蝠なんぞと道伴みちづれになって、いとど物騒な虚に乗じて、長蔵さんが事ありげに声をげたんである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手近い例を擧ぐれば、黒闇くらやみに脱いだ吾が下駄は、黒闇で穿けるのが當然だが、全氣で脱がなかつた下駄ならば、急に智炬を燃やしても巧く穿けぬのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
幾十日の間、黒闇くらやみの中に体を投げだしていたような状態が過ぎた。やがてその暗の中に、自分の眼の暗さに慣れてくるのをじっと待っているような状態も過ぎた。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
この連中が解散を告げて徽典館の門を出た時分に、黒闇くらやみの夜に例の霧のようなもやがいっぱいに拡がっていました。後なる人は前の人の影をさえ見ることができません。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おや、黒闇くらやみがものを言うぜ。」と反返そりかえりしも道理なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この黒闇くらやみかこうておくのではないからぬ。
幾十日の間、黒闇くらやみの中に体を投出してゐたやうな状態が過ぎた。やがて其暗の中に、自分の眼の暗さに慣れて来るのをじつとして待つてゐるやうな状態も過ぎた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
紙燭ししょくをさし出して慾心の黒闇くらやみを破ったところは親父だけあったのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)