鹹気しおけ)” の例文
そこには、露をつけた、背の低い、名の知れない植物がい回っていて、遠く浜から、かすかな鹹気しおけと藻の匂いが飛んでくるのだ。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
踏めば靴の底がれそうに水気みずけを含んでいる。橋本は鹹気しおけがあるから穀物の種がおろせないのだと云った。豚も出ないようだねと余は橋本に聞き返した。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
マターファは凡ての親しい者、親しい土地と切離され、北方の低い珊瑚さんご島で、鹹気しおけのある水を飲んでいる。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ただ、その中をかい間ぐって、ときおり妙にひいやりとした——まるで咽喉のどでも痛めそうな、苦ほろい鹹気しおけが飛んでくるので、その方向から前方を海と感ずるのみであった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
法水のりみず麟太郎りんたろうと支倉検事が「鷹の城ハビヒツブルグ」を訪れたのは、かれこれひるを廻って二時に近かったが、陽盛りのその頃は、漁具の鹹気しおけがぷんぷん匂ってきて、いわは錆色に照りつけられていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)