食扶持くいぶち)” の例文
訊かずに、黙って預かってくれ。長くて二た月短くば半月、食扶持くいぶちは月に三両、逃がさずにおいてくれたら後でお礼に五両出す
それは食扶持くいぶちいっさいむこう持ちで月給が七円だというのです、それでからだを動かすことはあまりないというんですから、さっそくそれに決めたのです。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
セーヌ河の中の島でむく犬のリックとラックに向うから遊で飽かれて仕舞った老人で食扶持くいぶちの年金は独逸ドイツの償金で支払われて居るのがエッフェル塔を指してこういった。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
他の居候の三日半の食扶持くいぶちで、おれくらいの学者が一月飼っておけるとなりゃア損得ずくから考えても、損にゃなるまい。それでも、置いてさえくれりゃア、こっちは大助りだ。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
食扶持くいぶちを入れる代りに貯金しろと兄貴が嫂の理解を得て言ってくれた。四五年やれば東京へ行く学資が出来る。夜学の大学へ通って高等文官試験を受けようという遠大な計画だった。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
叔母は最初から僕が原稿を書いて食扶持くいぶちでも入れるものとでも思ってるんでしょう、僕がペンを持っていると、そんなにして書いたものはいったいどうなるの、なんて当擦あてこすりを云います。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その異人が、ボイロフの室代や食扶持くいぶちの借金をすっかり払った上、相当の手当をして、区役所の届出から、遺骸の始末まで残る所なくして行ったというのです。亭主に言わせると
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
米沢町の長屋を借りての一人住居、母親が甘いから、月々の食扶持くいぶちだけは仕送って居るが、腰抜け彌八それを良いことにして、昼は両国広小路の巴屋で、温かい茶を飲んで半日粘り、夜は夜とて——