青砥あおと)” の例文
煙草盆を、そこへ出しておいて、下剃は、流し元で、青砥あおとをすえて、ごしごしと、剃刀かみそりぎはじめた。二階がやわなので、地震のように、家がうごく。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
粉をふいたような青砥あおと色の地に、くすんだ千歳茶ちとせちゃの斜山形がたてつれの疵みたいに浮きあがっているの。
猪鹿蝶 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鹿礪石ろくといしのざらりとした肌理きめ真礪まと青砥あおとのなめらかな当り、刃物と石の互いに吸いつくようなしっとりした味が、なんだかもう思いだせなくなったようで、心ぼそくってしようがなかったんだ
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
後には、提灯を手にして往来をさがすような青砥あおとの子孫もあらわれるし、五十ばかりの女が闇から出て、石をさぐったり、土をつかんだりして見るのも有った。さかしい慾の世ということを思わせた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
粉をふいたような青砥あおと色の地に、くすんだ千歳茶ちとせちゃの斜山形がたてつれの疵みたいに浮きあがっているの。
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
城下へはいった一角は、その翌日、藩の湧井わくい半太夫と青砥あおと弥助をふいに訪ねた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やすはうねのある鼠紺ねずこんのお召にぽってりとした青砥あおと色の子持こもちの羽織、玉木屋の桐の駒下駄をはいて籠信玄かごしんげんをさげ、筑波山へ躑躅つつじでも見に行くような格好でコンパルチマンから降りてきて
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もう、青砥あおと弥助も、湧井半太夫も、十一人すべてが躍りあがって
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おふたり連れで……。湧井わくい様、青砥あおと様と仰っしゃるお方が」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)