阿父おやじ)” の例文
その酒屋の一人娘がワーワー泣いて阿父おやじさんに叱られていたが、小さなアンポンタンの胸は、父娘おやこのあらそいを聞いてドキンとした。
「この雨は——なかなかみそうもない。——とにかく手紙で小夜子さんを呼ぼう。阿父おやじが待ちかねて心配しているに違ない」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然うさ、阿父おやじの想は解かツてゐる、俺を家の番人ばんにんにしやうといふんだ………魂のある道具どうぐにして置かうといふんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
聞きねえ、親なり、叔父なり、師匠なり、恩人なりという、……私が稼業じゃ江戸で一番、日本中の家元の大黒柱と云う、少兀すこはげの苦いつらした阿父おやじがある。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし、叔父さん、私の家を御覧なさい——不思議なことには、代々若い時に家を飛出していますよ。第一、祖父おじいさんがそうですし——阿父おやじがそうです——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
阿父おやじさんは、とおにならない私には、新聞紙の一頁を二つに折ったほどの大きさの顔に見えた四角い人だった。胸毛も生えて、眉毛がねじれ上っていた。
「甲野さん。頼むから来てくれ。僕や阿父おやじのためはとにかく、糸公のために来てやってくれ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ、そこへ腰を掛けろよ。場合によっては、吾家うち阿父おやじに話してやってもいい。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まだ叔父さんにも御話しませんでしたが、漸く吾家うち阿父おやじ行衛ゆくえも分りました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だがね、今僕の阿父おやじを井上さんの所へやっておいたから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)