門附かどづ)” の例文
木之助は一軒ずつ軒づたいに門附かどづけをするようなことはやめた。自分の記憶をさぐって見て、いつも彼の胡弓をきいてくれた家だけを拾って行った。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ある時は行商となり、ある時は車をおしてものをあきない、ある時は夫の郷里にゆく旅費がなくて、門附かどづけをしながら三味線をひいて歩いたこともあった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
心なき門附かどづけの女の歌。それに興を催してか竜之助も、与兵衛が心づくしで贈られた別笛べつぶえの袋を抜く、氏秀切うじひでぎり伽羅きゃら歌口うたぐち湿しめして吹く「虚鈴きょれい」の本手。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その門附かどづけの足と一緒に、向うへ寄ったり、こっちへよったり、ゆるゆる歩行あるいて来ますようです。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その道楽がこうじると、一人で使うことの出来る小さな指人形を持って町から町を門附かどづけして歩き、呼び込まれれば座敷へ上ってさわりの一とくさりを語りながら踊らせて見せると云うようなのもあり
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
松次郎はもう二度ばかり門附かどづけに行ったことがあるので、一向平気だったが、始めての木之助ははずかしいような、誇らしいような、心配なような、妙な気持だった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
少しばかり習い覚えました平家琵琶を語って、門附かどづけを致しておりますのでございます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生活に幾分余裕があったのでもあろうが、お三日さんじつに——朔日ついたち、十五日、廿八日——門に立つ物乞おもらいも、大概顔がきまっていた。ことに門附かどづけの芸人はもらいをきめているようだった。
尺八は持ったけれども別に門附かどづけをして歩くのでもありませんでした。天蓋てんがいの中から足許あしもとにはよく気をつけて歩いて行くと、それでも三日目に桑名の宿しゅくへ着きました。ここから宮まで七里の渡し。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)