鑵子かんす)” の例文
外はうらうらと緑に光った空の下に、子どもも女たちも出て働いている日、祖父だけが一人残って鑵子かんすの火を焚きつけようとしている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこには大きな角火鉢や、大きな鑵子かんすがあって世話人や、顔の売れた信者の、団欒だんらんする場処ところだった。
のみならず師泰は、天王寺塔の九輪の宝鈴ほうれいを一つつぶして、こころみに酒の鑵子かんす(ちろり)に造らせてみるに、玲々れいれいたる金味かなあじがあり、これでかんをすると何ともいえぬ芳味があった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆が鑵子かんすの下を吹ッたける間、自分は家の内を見廻した。この家はすすだらけにくすぶり返ッて、見る影もないアバラス堂で、稗史よみほんなどによく出ている山中の一軒家という書割であッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
火鉢の鑵子かんすの湯をたぎらせお茶盆をひきよせて、出来上った人の格好を示してた。