鋼色はがねいろ)” の例文
夏六月の下旬、陽はすでに落ちて、広い道場の(みがきこんだ)床板が、武者窓から斜めにさしこんで来る残照をうつして冷たく鋼色はがねいろに光っている。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
岩むらの羊歯しだからすの声、それから冷たい鋼色はがねいろの空、——彼の眼に入る限りの風物は、ことごとく荒涼それ自身であつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
むしろ種族と典型との等しさ——あの晴れやかな鋼色はがねいろの眼、明色ブロンドの髪を持つ種類としての等しさによるのだった。
昼間じゅうつよい日光に乾かされている鋼色はがねいろの樹の葉のかおりがとけあって、落葉ですべりかけたり
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
今にも頭を包みそうに近くせまってる鋼色はがねいろの沈黙した大空が、際限もない羽をたれたように、同じ暗色の海原に続く所から波がわいて、やみの中をのたうちまろびながら、見渡す限りわめき騒いでいる。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は並外れて美しい、姿の好い児で、肩が広く腰が細く、陰のない鋭く物を見る鋼色はがねいろの眼を持っている。