りょう)” の例文
木蔭からそっと首をのばして窺うと、牛飼いもない一りょうの大きい車が牛のひくままにこちらへしずかにきしって来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よしこれからはもう少し下品になってやろう。とくだらぬ事を考えながら柳町の橋の上まで来ると、水道橋の方から一りょうの人力車が勇ましく白山はくさんの方へけ抜ける。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
動物園の前には一りょうの馬車が待っていた。白いハッピを着た御者ぎょしゃはブラブラしていた、出札所しゅっさつしょには田舎者らしい二人づれが大きな財布からぜにを出して札を買っていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
なき玉菊たまぎくが燈籠の頃、つづいて秋の新仁和賀しんにわかには十分間に車の飛ぶことこの通りのみにて七十五りょうと数へしも、二の替りさへいつしか過ぎて、赤蜻蛉あかとんぼう田圃に乱るれば、横堀にうずらなく頃もちかづきぬ。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
りょうばかりの人力車くるまが静粛な群集の中を通って、御仮屋の前まで進みました。真先には年若な武官、次に御附の人々、大佐、知事、馬博士、殿下は騎兵大佐の礼服で、御迎の御車に召させられました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)