軒廂のきびさし)” の例文
朱塗りの小燭台のような、堅いがくの上に、数片の赤い花弁が乱れている。雨は屋根の瓦を打ち、軒廂のきびさしを叩き、木木の葉を鳴らして、かまびすしい。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
板葺いたぶきの屋根、軒廂のきびさし、すべて目に入るかぎりのものは白く埋れて了つて、家と家との間からは青々とした朝餐あさげの煙が静かに立登つた。小学校の建築物たてものも、今、日をうけた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そろそろ四刻よつすぎでもございましょうか」と、軒廂のきびさしから明星を仰ぎながら銀五郎。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒廂のきびさしの影も地にあつた。夜のもやは煙のやうに町々を籠めて、すべて遠く奥深く物寂しく見えたのである。青白い闇——といふことが言へるものなら、其は斯ういふ月夜の光景ありさまであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
長い廻廊のやうな雪除ゆきよけの『がんぎ』(軒廂のきびさし)も最早もう役に立つやうに成つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)