躁狂そうきょう)” の例文
陽気な声を無理に圧迫して陰欝いんうつにしたのがこの遠吠である。躁狂そうきょうな響を権柄けんぺいずくで沈痛ならしめているのがこの遠吠である。自由でない。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし不遠慮に言えば、百物語の催主が気違みた人物であったなら、どっちかと云えば、必ず躁狂そうきょうに近い間違方だろうとだけは思っていた。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一羽の馴れない鶏を入れたために、鶏舎の群鶏ぐんけいがみな躁狂そうきょうして傷つく例もありますから、よほど考えものです。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀座がネオンとジャズでき返るような熱鬧ねっとう躁狂そうきょうちまたと化した時分には、彼の手も次第にカフエにまで延び、目星めぼしい女給で、その爪牙そうがにかかったものも少なくなかったが、学生時代には
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あっ!」と三人は、あっ気にもとられたが、また躁狂そうきょうとして、一刻も早く、万吉とお綱の道をくい止め、弦之丞とがっしぬうちに、非常手段を講じなければ——と騒ぎ立った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
落雲館の諸君子だ、年齢から云うとまだ芽生えだが、躁狂そうきょうの点においては一世をむなしゅうするに足る天晴あっぱれごうのものである。こう数え立てて見ると大抵のものは同類のようである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
露八の眠らない頭は、ようやく、躁狂そうきょうになって、倉の中を、えながら、廻って歩いた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)