趨向すうこう)” の例文
なぜならば、かくばかり純粋な人の心の趨向すうこうがなかったならば、社会政策も温情主義も人間の心には起こりえなかったであろうから。
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
従ってぼくのしごとは学界の趨向すうこうにも世間の風潮にもかかわりはなく、ぼくひとりの心の動いてゆくままにしたことである。
学究生活五十年 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
たとえば理論から出した最大剪断応力せんだんおうりょく趨向すうこうを示す線系が、実物試片のリューダー線や、「目に見える割れ目」とだいたい一致していたとしても、それは言わば偶然であって
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
読者界の趨向すうこうがどの方へ向かってきたせいにもよるだろうが、他面、従来探偵小説が継子扱いにされていた出版界の変態的な歪みに乗じて起こった一つの自然現象であるとも言える。
現下文壇と探偵小説 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
必ずやこの歴史の流れの中にあって先人の試みていまだ達せざりし所のものを見出してそれによって新しい境地を開くか、現代の俳句の趨向すうこう反撥はんぱつしてえて新境地を開こうと努力するものか
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これは藩主にして、彼は世臣せいしんの相違はあれども、薩長二藩の関原以来蓄積したる活力を擢揮てっきし、大勢の趨向すうこう指点してんし、時艱じかんすくうの人物を鼓動したるは、実に二人先導の功に帰せざるを得ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そしてその智能の結果から生まれ出たこの方言を死滅させ葬り去らせて顧みぬ事は国の文運として許されない事で、強いてこれを等閑視するのは取りも直さず民衆思想の趨向すうこうを殺すものというべきだ。
流行の学術は恐くはこれ真の学術にあらざるなからんか。而も見よ書籍の出版、学校の設立、雑誌の発刊、学生の趨向すうこうその変遷する所を推してしかして称するに流行を以てす必しも不可なるに非ず。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)