誰某だれそれ)” の例文
誰某だれそれさんがこられるから気をつけておいでと召し使いに言うと、ちょうどその人がやってくる、そういうことも時々あるものである。
「時に、もし、迷児、迷児、と呼んで歩行あるきますが、誰某だれそれと名を申して呼びませいでも、分りますものでござりましょうかね。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この平素ふだん信じていたことを——そうだ、よく彼女に向って、誰某だれそれは女でもなかなかのシッカリものだなどと言ってめて聞かせたことを、根から底から転倒ひっくりかえされたような心地こころもちに成った。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
誰某だれそれさんにいられてきは往ったが、日帰りのつもりがつい二タ晩になったりして、一人先へ帰るわけにいかず、何も商売だと思って附き合っていたと、小菊もお茶を濁そうとしたが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
誰某だれそれは偉い奴だ、史記の列伝丈を百日間でスッカリ読み明らめた」というような噂が塾の中で立つと、「ナニ乃公なら五十日で隅から隅まで読んで見せる」なんぞという英物えらものが出て来る
学生時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
聞くと、筋も身を引釣ひッつった、私は。日暮に谷中の坂で聞いた、と同じじゃないか。もっとも、年寄りは誰某だれそれと人をめないと、どの声も似てはいるが。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰某だれそれ屁玉へだまくらって凹んだと大きに笑われたそうで、もう懲々こりこりして、誰も手出しは致しません、何と、短銃では、岩見重太郎宮本の武蔵でも叶いますまい。と渋茶を一杯。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)