そそ)” の例文
教育ある婦人で殊に選挙権ある男子の家庭にある婦人たちは時節柄その見聞に由っても政治上の興味をそそられることがないとは限らない。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
吾儕の心をそそりゆいて、趣味の巷にこれ三昧の他事なきに至らしむる、また以て忘機の具となすに足るべきではあるまいか。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
あの「……薄尾花すすきおばなも冬枯れて……」と、呂昇の透き徹るような、高い声を張り上げて語った処が、何時までも耳に残っていて、それがお宮を懐かしいと思うこころそそって
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
『都の花』はあたかも世間が清新の読物に渇する時に生れたので、忽ち当時の雑誌のレコードを破って、美くしい花やかな気持の好い表紙が新らしい気分をみなぎらして若い読書家の心をそそった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
一度は世に捨て果てて顧みられざった名物の凧も、この両三年已来再び新玉の空に勇ましき唸りを聞かせて、吾儕の心をそそるは何よりも嬉しい。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
このエキゾチックな貴族臭い雰囲気に浸りながらかすみせきを下りると、その頃練兵場であった日比谷の原を隔てて鹿鳴館の白い壁からオーケストラの美くしい旋律が行人をそそって文明の微醺を与えた。
秋は月の夜更けに、都の大路小路を流しゆく新内の三味線、澄み切った空に余音を伝えて妙に心をそそるもあわれだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)