角屋すみや)” の例文
かつて、島原の角屋すみやで、お松が竜之助の傍に引きつけられているうちに、その身辺からものすごい雲がむらむらと湧き立つように見えて
今出て来たばかりの暖簾のれんの内へ、二人はもう引っ返している。大きな三ツがしわの紋を三つに割って、端に、角屋すみやとしてある暖簾であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母「そうさ、池上町いけがみまち角屋すみやは堅いという評判だから、あれへ参り宿を取っておいで、九ツの鐘を忘れまいぞ」
大島得郎君の紹介で一夜京は島原の角屋すみやに遊んで相知ったS太夫という若い美しい堺の芸妓くずれの傾城に私はたいそう心を傾けてしまったのであるが、生来
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
フェイフォには二百五十人の日本人が住みつき、店舗が六十軒もあって、角屋すみや七郎兵衛が差配していた。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さうして角屋すみやというて尋ねて行けといつた。西陣を出たのは午頃であつた。二條の城の附近をめぐつて、場末の汚い溝のほとりを過ぎたりして島原までは長い道程であつた。
菜の花 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「二丁目の角屋すみやという酒屋だそうですから、そこへ行って訊きましょう」
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この後とうてい復活の望みのない日本色里の総本家の名残なごりのために、この島原の如きも、物好きな国粋(?)保存家が出て、右の角屋すみや
そう訊かれて、彼は初めて、この人々が、奥に泊っている角屋すみやの者と、旅籠はたごの雇人たちで、朱実を探しに来たものと知った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「嘘をつけ。わりゃあ、角屋すみやおんなを引っぱり出して、外へ行ったというじゃねえか。——今から、そんなまねしやがって、末恐ろしいやつだ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ナンダつまらない」その名前倒れを露出むきだしにしながら、とにかくここで第一の旧家といわれる角屋すみやの前に足をとどめてみても、御多分ごたぶんに洩れぬ古くて汚ない構えである。
ついにはこらえられなくなって引返そうとしたが、我慢がまんして、そのあとをついて行くと角屋すみやへ入る。
ゆくりなく島原の角屋すみやの御簾の間の昔に返って、あそこへ寝てみたが、べつだん面白い夢は見ないで、悪ふざけの実演を見たのか、見せられたのか、最後にいささか溜飲を下げることではあったが
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで当然、日本色里の総本家と称せられた島原のくるわはいよいよ明るい。今宵こよいも新撰組の一まきらしいのが大陽気に騒いで引揚げたことのあとの角屋すみやの新座敷に、通り者の客の一人が舞い込んでいる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わっしは、島原の地廻りの者なんでございますが、角屋すみやさんの方から、たった今、これこれのお客様がお帰りになるから、おそそうのないようにお宿もとまでお送り申せと、こう言いつけられたものでござんすから、それで、おあとを
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)