親父橋おやじばし)” の例文
国への江戸土産みやげに、元結もとゆい、油、楊枝ようじたぐいを求めるなら、親父橋おやじばしまで行けと十一屋の隠居に教えられて、あの橋のたもとからよろいの渡しの方を望んで見た時。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
飲んだ帰りらしい、ほろ酔い機嫌で親父橋おやじばしまで来かかると、橋のたもとの柳のかげから一人の男が飛び出して、不意に信次郎の横っ腹を突いたので……
自分は倉造りの運送問屋のつづいた堀留ほりどめあたりを親父橋おやじばしの方へと、商家の軒下の僅かなる日陰をって歩いて行った時、あたりの景色と調和して立去るに忍びないほど心持よく
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
親父橋おやじばしが渡しで廓がよいに不便だろうと、遊女屋側からかけたので、遊人それを徳とし、その特志家を——実は商業上手を、おやじおやじと尊称した名が残ったのであると記録にもある。
両国から親父橋おやじばしまで歩いて、当時江戸での最も繁華な場所とされている芳町よしちょうのごちゃごちゃとした通りをあの橋のたもとに出ると、いもの煮込みで名高い居酒屋には人だかりがして
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
親父橋おやじばしを渡りかゝると、あとからけて来たらしい一人の者が、つか/\と寄って来て、先ず横合から供の提灯をたゝき落して置いて、いきなりに桂斎先生の左の胸のあたりを突きました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先生の出て行くところを狙ったのですが、どうも工合が悪かったので、雨にぬれながら親父橋おやじばしの袂に立っていて、その帰るところを待ちうけて、今年十五の小僧が首尾よく相手を仕留めたのです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)