衿持きょうじ)” の例文
二人の羞恥は主に、自分が不図して相手より先に衿持きょうじを失ひはしまいかといふ心遣ひの方に向けられてゐた。
垂水 (新字旧仮名) / 神西清(著)
子供に現金を持たせて買い物をさせるなどは下司げすの貧乏人のすることで、上品な金持階級のすることでない。こういうのが祖母達の処世哲学であり、衿持きょうじでもあった。
見よ! あの衿持きょうじ高い我儘な妻が、命惜しさに奴隷のごとくに唯々いいとして恐怖と不安にふるえながら一糸纏わぬ豊艶な姿を、今軽蔑し切った不具者の私の前に晒しているのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
とあるところなどは、実に謙遜けんそんうち衿持きょうじをあらわして、如何にもおもしろい。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでゐて人一倍つよい少女らしい衿持きょうじを有つて、周囲のほとんど総ての男性を冷視してゐた真弓は、いま眼の前にあらはれた青年に対する自然な新しい興味に誘はれる前に
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)