行当ゆきあた)” の例文
旧字:行當
そつともとのやうに書物のあひだに収めて、なほもそのへんの一冊々々を何心なにごゝろもなくあさつてくと、今度は思ひがけない一通の手紙に行当ゆきあたつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はじめの烏ハタと行当ゆきあたる。驚いて身をひらく。紳士の袖をとらふ。初の烏、のがれんとしておどす真似して、かあ/\、と烏の声をなす。泣くが如き女の声なり。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
親兄弟もない一人法師ひとりぼつちで、今線路を切つたあの兎のやうに、或時は野宿したり、或時は人の家の納屋なやに寝たり行当ゆきあたりばツたりに世を渡つて来た身の上だ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
わたしは君の先祖を調査してブウリーに行当ゆきあたった時、わたし自身の推論の恐ろしさに身震いしないではいられなかった。ブウリーの名は戸籍簿にはない。大川新太郎で行止りになっている。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何でも上根岸八十二番とか思うていたが家々の門札に気を付けて見て行くうち前田のやしきと云うに行当ゆきあたったので漱石師そうせきしに聞いた事を思い出して裏へ廻ると小さな小路こうじで角に鶯横町うぐいすよこちょうと札が打ってある。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そっともとのように書物の間に収めて、なおもその辺の一冊々々を何心もなくあさって行くと、今度は思いがけない一通の手紙に行当ゆきあたった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)