蟇蛙ひきがえる)” の例文
それが、そこに、電燈の光の下に、蟇蛙ひきがえるのようにのっそりと構えこんでいた。存在することだけで既に罪悪のようだった。
古井戸 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
吃驚したような声を立てて二十二、三になる円顔の男が、ペタッと蟇蛙ひきがえるのように両手を仕えた。誰かに似ているなとおもったが、ちょっとおもいだせなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
と、蟇蛙ひきがえるが立ったような中腰でフーッと酒臭い息を吹っかけたもので、遠眼鏡に興じていた人たちの眼が、ちょっとそのほうへひかれたが、誰も相手にはしなかった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「女のような」どころか蟇蛙ひきがえるみたいな、久七のお武家とは似ても似つかぬこのごま塩頭だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仰向あおむくと蟇蛙ひきがえるを前から見たように真平まったいらつぶされ、少しこごむと福禄寿ふくろくじゅ祈誓児もうしごのように頭がせり出してくる。いやしくもこの鏡に対するあいだは一人でいろいろな化物ばけもの兼勤けんきんしなくてはならぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには皺くちゃな蟇蛙ひきがえるがいて、待っていたように悪態をきました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)