とろ)” の例文
それは彼が瞽目めくらだったからであった。顔に焚火があたっていた。両眼のまぶたがむくれ返り、真紅な肉裏を見せていた。眼球が一面に白かった。瞳がとろけてなくなっていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雷鳥らいちょうは影も見せない、風死して動くものもない、身も魂もこの空気の中にとろけてしまいそうだ、併しいつまで経っても、融けもしなければ揺ぎもしないものは、穂高と槍である
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
嫌だなと思うほど、女をとろかす分量のものをもっている。女は生れ付きの女の防禦心から眼をわきへ外らした。しかし身体だけは、ちょっと腰を前横へ押出して僅かなしなを見せた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)