虫籠むしかご)” の例文
「これやあ、城とも呼べない小城じゃないか。陪臣者ばいしんものの佐久間の家来が住むにはかっこうな虫籠むしかごだ。踏みつぶすには、半刻はんときともかかるまい」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楢茸ならたけ湿地茸しめじだけも少しは立つ。秋はさながらの虫籠むしかごで、松虫鈴虫の好いはないが、轡虫くつわむしなどは喧しい程で、ともすれば家の中まで舞い込んでわめき立てる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
枝にはまだ熟しない云訳いいわけほどって、その一本のまたの所に、から虫籠むしかごがかかっていた。その下にはせた鶏が二三羽むやみに爪を立てた地面の中をえたくちばしでつついていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただこのくらいなだったが——山の根に演芸館、花見座の旗を、今日はわけて、山鳥のごとく飜した、町の角の芸妓屋げいしゃやの前に、先刻の囃子屋台が、おおき虫籠むしかごのごとくに、紅白の幕のまま
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中宮は童女を庭へおろして虫籠むしかごに露を入れさせておいでになるのである。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)