自涜じとく)” の例文
雰囲気の醸成を企図する事は、やはり自涜じとくであります。〈チエホフ的に〉などと少しでも意識したならば、かならず無慙むざんに失敗します。
芸術ぎらい (新字新仮名) / 太宰治(著)
自涜じとく化させ、神経衰弱化させ、精神異状化させて、遂に全人類を精神的に自滅、自殺化させた虚無世界の十字街頭に、赤い灯
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
多くの才と知力とが、多くの精練された官能が、一種の恥ずべき自涜じとく行為のうちに消費されていた。彼らはそのことに少しも気づかなかった。彼らは笑っていた。
樵夫当日その内に読み込まるるを怕れて山に入らず、また甚だ男子が樹陰に自涜じとくするを好むと。
苦肉の策から、自分の弱味を殊更ことさらに捨て鉢に人の前にあらわに取り出して、不意に乗じて一種の尊敬を、そうでなければ一種の憐憫れんびんを、しぼり取ろうとする自涜じとくも知っている。弱さは真に醜さだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうしてその唯物文化を日に日に虚無化し、無中心化し、動物化し、自涜じとく化し、神経衰弱化し、発狂化し、自殺化した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひどい自涜じとくの為もあったのでしょう、学校に友達なく、全く一人で、姉、近所のW大生、小学時代の親友、兄夫婦も加えて、プリント雑誌『素描』を二年続けました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
雰囲気の醸成を企図する事は、やはり自涜じとくであります。「チエホフ的に」などと少しでも意識したならば、かならず無慙むざんに失敗します。言わでもの事であったかも知れません。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)