うけ)” の例文
自己にあらずんば、自己の体感したものにあらずんば、自からうけがはれないのは、けだし新時代の若い心の自然の現はれであらう。
エンジンの響 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
めた結果としてそう思うんです」と答えた時の私には充分の自信があった。その自信を先生はうけがってくれなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう場面よりほかのところで女が活溌であることは何となくうけがいかねる感情をもったりして、自分の男としての情緒にそれをそのまま肯定しているのはどういうわけなのだろう。
職業のふしぎ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
嘘吐うそつきという言葉がいつもより皮肉に津田を苦笑させた。彼は腹の中で、嘘吐な自分をうけがう男であった。同時に他人の嘘をも根本的に認定する男であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
極めて自然にうけがわれる。
必ず甲か乙かのどっちかでなくては承知できないのです。しかもその甲なら甲の形なり程度なり色合いろあいなりが、ぴたりと兄さんの思う坪にはまらなければうけがわないのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼らは第一に僕の弱々しい体格と僕の蒼白あおしろい顔色とを婿むことしてうけがわないつもりらしかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
健三は心の裡で細君のいう事をうけがった。しかし口ではかえって反対な返事をした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は三沢のこういう憤慨を聞いて、少し滑稽こっけいを感じたが、表ではただ「なるほど」とうけがった。すると三沢は「いやそれだけなら何も怒りゃしない。しかししゃくさわったのはそのあとだ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はその上に兄の神経衰弱もうけがった。しかしそれは兄の隠している事でも何でもなかった。兄はHさんに会うたんびに、ほとんどきまり文句のように、それを訴えてやまなかったそうである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)