こやし)” の例文
無量の亭主どもが戦場のこやしになれば、フランス中に寡婦や未亡人が満ちあふれるであろうから、この事業はかならず当るはずだ、などと考えていたのではなかろうか。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
谷底に下りたところで氷が音を立ててはじけ、こやしの滲みた堅い雪のかけらが道から跳ね飛んで、ぴしりと私の顔を打った。ひた奔る馬は余勢を駆って、のぼりも下りに劣らぬ疾さで駈けあがる。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは憐みの心がさう思はせるのであらう。老いた人が次の代の為めに夢を伝へる姿は、それは本来の美しさである。密林の朽木がわかい下草のこやしになる犠牲の様態には、畏敬に伴ふ美があらう。
本の装釘 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)