そそ)” の例文
暗黒やみの中に恐ろしい化物かなんぞのようにそそり立った巨大な煉瓦れんが造りの建物のつづいた、だだッ広い通りを、私はまた独りで歩き出した。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
なるほど、そこには注連しめを張った大きな銀杏のたくましくそそり立っているばかり、鳥居も、玉垣も、社殿も……牛島神社の影もかたちもが存しなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
世俗に聖堂と呼ばれている、このニコライ堂そっくりな天主教の大伽藍が、雑木林に囲まれた東京の西郊Iの丘地に、R大学の時計塔と高さを競ってそそり立っているのを……。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
すべての木の葉の中で、あめが下の王妃きさいの君とも称ふべき公孫樹いてふの葉、——新山堂の境内のあまそそ母樹ははぎの枝から、星の降る夜の夜心に、ひらり/\と舞ひ離れて来たものであらう。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
男岳おのかみ女岳めのかみとの間になだれをなした大きな曲線たわが、又次第に両方へそそって行っている、此二つの峰の間の広い空際。薄れかかった茜の雲が、急に輝き出して、白銀の炎をあげて来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
やがて大路の北のはて、天路にそそ
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)