老婆ばあさん)” の例文
あの洋妾らしやめん上りの老婆ばあさんとは違つて、金はあつても壽命のない男だと見える。吾儕は斯の不幸な亭主の沈んで居るといふ洞を望んで通つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
加藤の家へも梅干飴うめぼしあめを持って帰ってやると、老人じいさん老婆ばあさん大悦おおよろこびで、そこの家でも神棚かみだなに総燈明をあげて、大きな長火鉢を置いた座敷が綺麗きれいに取りかたづけられて
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
長峰の下宿の女房かみさんも、権之助坂の団子屋の老婆ばあさんも、私は至るところで千代子の恋の噂を耳にした、千代子は絶世の美人というのではないけれども、大理石のようにこまやかなはだ
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
彼女は留守宅を老婆ばあさんに托して行くこと、名古屋廻りの道筋を取って帰国することなどを、叔父や叔母に話して置いて、心忙しそうに別れて行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこは、往時もと女髪結で直樹の家へ出入して、直樹の母親の髪を結ったという老婆ばあさんが見つけてくれた家であった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
入口の片隅かたすみには、故国くにの方の娘達にしてもよろこびそうな白と薄紫との木製の珠数ずずを売る老婆ばあさんがあった。その老婆も仏蘭西人だ。岸本は本堂の天井の下に立って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
路地の角に、豊世と老婆ばあさんの二人が悄然しょんぼり立って、見張をしている。そこへ三吉が帰って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二日の間の旅で、吾儕はこの馬丁と懇意に成つて、知らない土地のことを種々いろ/\と教へられた。この馬丁から、色男の爲に石碑を建てたとかいふ洋妾らしやめん上りの老婆ばあさんのことまで教へられた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)