羞恥はにかみ)” の例文
人一倍羞恥はにかみの強い私には、小学校から女学校を通じて十幾年間に、真底から馴れて愛して頂くことが出来たのは、この先生だけでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それから羞恥はにかみに似たような一種妙な情緒があって、女に近寄りたがる彼を、自然の力で、護謨球ゴムだまのように、かえって女からはじき飛ばした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まだ童形どうぎょうを持つ彼の野性は、人のはなしだけに知っている藤原氏全盛の宮廷や巷を予想して、もうそこへ立ち交じる日の羞恥はにかみにすら、動悸していた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品夫の手からすべり落ちたメスが、床の上に垂直に突立った。同時に気がゆるんだらしくグッタリとなった品夫は、両頬を真赤に染めて羞恥はにかみながら、健策の胸にしなだれかかった。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
家庭以外の空気に触れたため、初々ういういしい羞恥はにかみが、手帛ハンケチに振りかけた香水ののように自然と抜けてしまったのではなかろうかと疑ぐった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
城内の柴田、林などの、手強てごわい重臣たちからは、ひどく押し太い、厚顔な男と睨まれている彼も、ここでは甚だ羞恥はにかみがちな、一箇の好青年でしかなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)