罅隙すきま)” の例文
削立つた岩は罅隙すきまのない壁の様で、しかもその上から瀑布たきが泡を飛ばして墜ちて来て、直ぐ下にある、周囲まはりの森の影に裹まれて、真黒な淵にはいります。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
古くなって石の位置が動いたためか、段の方々には凸凹でこぼこがあった。石と石の罅隙すきまからは青草が風になびいた。それでも其所は人の通行する路に違なかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
罅隙すきまから吹きこむ冷洌な風が、密度の低い洞中の空気に逢って急激な断熱冷却をおこし、なめらかな漆黒の岩側に無数の水玉をむすび、安全燈の光があたるごとに
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
露に湿しめりて心細き夢おぼつかなくも馴れし都の空をめぐるに無残や郭公ほととぎすまちもせぬ耳に眠りを切って罅隙すきまに、我はがおの明星光りきらめくうら悲しさ、あるは柳散りきりおちて無常身にしみる野寺の鐘
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近くに罅隙すきまがあるらしく、湿気を帯びた風が、そっと皆のうえを吹き通っていった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)