きつ)” の例文
だが、この場合は窪んだ腹にきつく締めつけてある帯の間に両手を無理にさし込み、体は前のめりのまま首だけ仰のいて
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それからその巻きようがゆるくなったり、きつくなったりした。兄の顔色は青大将の熱度の変ずるたびに、それからその絡みつく強さの変ずるたびに、変った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医学士「ウム例のか、動きなど仕やがって、仕ようがないなア、最っと鉄鎖をきつくして置くが宜い」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
足許が棒のようになったので足掻きがつかずもろに倒れそうになっては、立ちなおって荒れる。容赦なく腹を締めつけ、遂に両腕もきつく白木綿の下に巻き込まれてしまった。
牡丹 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
斯うしている間に竜次郎は、始終無形の縄に縛られて、きつく繋がれたような気持がして、一歩も外へ踏み出せぬので有った。又お鉄がほとんど附切りで、近き大杉明神へも参詣させぬ。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
人間がきつく意識して掴もうとすればそこには掴まえられず、掴まえる意識を解き放つとき、ふと在所だけは見せて来る。いのちの所在というものもざっとそんなものではありますまいか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)