絹行燈きぬあんどん)” の例文
新字:絹行灯
金砂子きんすなごの袋戸棚、花梨かりん長押なげし、うんげんべりの畳——そして、あわ絹行燈きぬあんどんの光が、すべてを、春雨のように濡らしている……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
り落とした眉毛まゆげの後が青々と浮んで見える色白の美顔は、絹行燈きぬあんどん灯影ほかげを浴びて、ほんのりとなまめかしかった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
廓町の道路には霰がつもって、上品な絹行燈きぬあんどんのともしびがあちこちにならんで、べに塗の格子の家がつづいた。私はそこを小さく、人に見られないようにして行って、ある一軒の大きな家へはいった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
女は絹行燈きぬあんどんの火を掻立てながら振返った。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母屋おもやからは一段と、河原の中に突出ている離座敷には、人の気勢けはいもなかった。ただほんのりとともっている、絹行燈きぬあんどんの光の裡に、美しい調度などが、春の夜にふさわしいなまめいた静けさを保っていた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)