細殿ほそどの)” の例文
暑気を避けるより、十四日の盆供ぼんくに伜どもの墓を賑やかに飾りたて、谷の上の細殿ほそどのからゆっくり見おろしてやろうという目的らしかった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人声もない廻廊やうす暗いひさしを通って、元の中門廊のほうへ彼が戻りかけてくると、ふと、細殿ほそどのの蔭から、誰かよびとめる者があり
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮中で行なわせられた五壇の御修法みずほうのために帝が御謹慎をしておいでになるころ、源氏は夢のように尚侍へ近づいた。昔の弘徽殿の細殿ほそどのの小室へ中納言の君が導いたのである。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
暁がた、男は一人で庭に降り立って、ほんのりとかかったほそい月を仰ぎ仰ぎ、読経などをしながら、履音くつおとをしのばせてそぞろ歩きしていた。細殿ほそどのの前には丁子ちょうじの匂が夜気に強く漂っていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いや満座百余の人々も、総立ちにち騒いだ。——高時はとみれば、早や細殿ほそどの長押なげしに跳びつき、貝塗柄かいぬりえ薙刀なぎなたを取って、それを小わきに
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十四日の盆供ぼんくに伜どもの墓を賑やかに飾りたて、谷の上の細殿ほそどのからゆっくり見おろしてやろうという目的らしかったが、予期されたように公子と花世もいっしょに行くことになり
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
細殿ほそどのの簾に、微かな灯揺ほゆらぎが窺われる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)