紙漉場かみすきば)” の例文
近頃は同じ市の中に編入されましたが、もとの中田村柳生やなぎう紙漉場かみすきばがあります。ここで他ではほとんど作らない紙を漉きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
露路の入口は狭いが、奥には可なりに広いあき地があって、ここら特有の紙漉場かみすきばなども見えた。藤助の家にも小さい庭があって、桃の木が一本立っていた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
前には野原のように広い紙漉場かみすきばがあった。其所を折れ曲って町つづきへ出ると、狭い川に橋が懸っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家へ帰ると、気をきかして何処どこかへ用達ようたしにやったとみえて、作の姿は何処にも見えなかったが、紙漉場かみすきばの方にいた養父は、おとらの声を聞つけると、直に裏口から上って来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
不意をたれてギョッとした虚無僧が、「何をッ」と天蓋てんがいをハネたのをきッかけにして、二本の白刃へ向って集まる十手の疾風が、まず紙漉場かみすきばの裏あたりから凄まじい乱戟の渦紋を起こして
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕事として大きいのは比企ひき小川おがわ町の手漉紙てすきがみであります。川に沿うて点々と昔ながらの紙漉場かみすきばを見られるでしょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして終日庭むきの部屋で針をもっていると、頭脳あたまがのうのうして、寿命がちぢまるような鬱陶うっとうしさを感じた。お島は糸屑いとくずを払いおとして、裏の方にある紙漉場かみすきばの方へ急いで出ていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
最前からこの辺へ、うさん臭い男がウロついていましたので、かかあにも油断をするなと言っていますと、案の定、向うの紙漉場かみすきばへ人数が集まって、いつのまにか八方を塞いでしまった様子です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲州にはまた紙漉場かみすきばもあって、南巨摩みなみこま郡西島村や西八代にしやつしろ市川大門いちかわだいもんなどに、今も仕事が見られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
紙漉場かみすきばなどをもって、細々と暮していた養家では、その頃不思議な利得があって、にわかに身代が太り、地所などをどしどし買入れた。お島は養親やしないおやの口から、時々その折の不思議をれ聞いた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)