紙帳しちやう)” の例文
文吾はぞつと身慄ひをして、母の寢息の籠つた紙帳しちやうの中へもぐり込んだ。寺で蚊に食はれた痕が、急にかゆくなつて來た。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ときに、薄霧うすぎりが、紙帳しちやうべて、蜻蛉とんぼいろはちら/\と、錦葉もみぢうたゑがいた。八月六日はちぐわつむいかおぼえてる。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その名をぬひと呼ぶと聞きて、行先ゆくさき人の妻となりてたちぬひの業に家を修むる吉瑞きちずゐありと打ち笑ひぬ。時も移りて我は老婆と少娘との紙帳しちやうに入りて一宵いつせうを過ごしぬ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この夜の紙帳しちやうは広くして、我と老侠客と枕を並べて臥せり、屋外の流水、夜の沈むに従ひて音高く、わが遊魂を巻きて、なほ深きいづれかの幻境に流し行きて、われをして睡魔のとならしめず。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)