紅殻色べんがらいろ)” の例文
店の紅殻色べんがらいろの壁に天狗の面が暴戻ぼうれいな赤鼻を街上に突き出したところは、たしかに気の弱い文学少年を圧迫するものであった。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
向う岸は倉庫と倉庫の間の空地に、紅殻色べんがらいろで塗った柵の中に小さい稲荷いなりと鳥居が見え、子供が石蹴いしけりしている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
姉妹は眠つた、母親は紅殻色べんがらいろの格子を締めた!
船はタンジョンパガールの埠頭ふとうに横づけになる。右舷に見える懸崖けんがいがまっかな紅殻色べんがらいろをしていて、それが強い緑の樹木と対照してあざやかに美しい。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
椰子やしの林に野羊が遊んでいる所もあった。ささ垣根かきねが至るところにあって故国を思わせる。道路はシンガポールの紅殻色べんがらいろと違ってまっ白な花崗砂かこうしゃである。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
椰子やしの木の森の中を縫う紅殻色べんがらいろの大道に馬車を走らせた時の名状のできない心持ちだけは今でもありあり胸に浮かんで来るが、細かい記憶は夢のように薄れて
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして目に見えぬ漏斗から紅殻色べんがらいろの灰でも落とすようにずるずると直下に堆積たいせきした。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)